浅草で142年続く「すき焼き店」を事業承継 老舗が決断に至った背景とは?:コロナ禍で閉店(3/6 ページ)
外食事業会社WDI GROUPは、創業142年を誇る浅草のすき焼き店「ちんや」の暖簾(のれん)を承継した。新型コロナウイルスの余波が経営を直撃し、21年8月に閉店を余儀なくされた。しかし、伝統あるすき焼き文化を絶やしてはいけないとWDIが事業を受け継ぎ、場所を移転して再オープンすることとなったのだ。
登録商標した「適サシ肉」
ちんやは「適サシ肉」を17年に商標登録している。これは「適度な霜降り肉」のことを指す。脂肪の量は4等級(5等級は不使用)、月齢30カ月まで肥育した雌の和牛(=脂肪の融点が低い)、サシの入り方が細かい「小ザシ」(熱を加えると良い香りが出る)という細かな決まり事がある。
住吉6代目は「たくさん食べてももたれない肉です。精肉業界においては『何度で融けるのか?』を『質』と表現します。ちんやとしては室温で脂が融ける肉を使っています。加えて、血統も大事です。牛の個体の情報を把握した上で、まるまる一頭を一社単独で仕入れます。食べている牛の父や母は、いつ生まれ、いつ肉になったのかなども分かります」と、まるで競争馬のように、厳格に管理し育てた牛のみを使う。
「佐賀牛でも松坂牛といっても個体差があるわけです。そもそも、私たちの基準に合致する牛は少なくて、1日中市場で待っていても2、3頭しか見つかりません。そこにブランド肉となると買える牛がほぼなくなってしまいますね」
清水社長も実情を説明する。
「私はこの適サシ肉に惚(ほ)れたのです。WDIでも約10年、ウルフギャング・ステーキハウスを経営していますが、時代の流れとして脂肪の少ない赤身の『リーン』な肉を食べる文化が根付いてきているのを肌で感じています。
すき焼きで牛肉2枚を食べるとお腹いっぱいになる店が多い中で、適サシ肉を扱っているちんやの肉は時代の流れにも合っています。会社として取るべき方向だということで住吉さんと握手をさせていただきました。例えば、外国人でも肉を知れば知るほど、A5からA4に移ってきています。欧米系の富裕層はそうなってきていますね」
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