「勘違い」だらけの裁量労働制 労働時間や手当の知られざる実態は:これからの「労働時間」(2)(4/4 ページ)
裁量労働制は、業務に対する裁量性が大幅に本人に委ねられている柔軟な働き方だ。出退勤の自由だけではなく、効率よく働けば会社の所定労働時間以下の稼働でも許される制度だが、誤解も多い。この記事では、正しい裁量労働制の手続きや成約と、労働時間や手当の実態を解説する。
処遇や出退勤に関しての実態
処遇に関しては、通常の給与以外に毎月一定額の裁量労働手当を支給している企業もある。実は筆者自身、ほとんどの企業が何らかの手当を払っていると思っていたのだが、実際はそうではない。
調査によると、1カ月ごとに特別手当を支給している企業は専門型が47.2%、企画型が63.2%だったが、特別手当を支給していない企業が専門型48.5%、企画型35.8%もあった。
特別手当の平均額は専門型7万3545円、企画型8万5401円。最も多い中央値は5万円以上6万円未満であるが、10万円以上支給する企業も少なくない。特別手当もないうえに業務量も多く、長時間労働だと社員の不満も強くなりやすいだろう。
不満は与えられた裁量の程度にも関係する。
「具体的な仕事の内容・量」に関する裁量では「上司に相談の上、自分が決めている」が最も多く38.7%。次いで「上司に相談せず、自分が決めている」が24.9%だった。その一方で「自分に相談なく、上司(または社内のきまり)が決めている」が7.1%、「自分に相談の上、上司が決めている」が20.4%(専門型)。仕事の内容・量に関して必ずしも裁量の全権が与えられているわけではなく、企業によっても異なることが分かる。
驚いたのは出退勤自由が原則の裁量労働者であっても出退勤時間について「自分に相談なく、上司(または社内のきまり)が決めている」が5.6%、「自分に相談の上、上司が決めている」が2.0%もいることだ(専門型)。
企画型でも計6%の人が「上司が決めている」と答えている。仕事や労働時間に関する裁量を認めている企業がある一方で、仕事の内容・量や出退勤時間に関して上司が深く関与するなど、裁量労働とは呼べない実態も浮かび上がる。
裁量労働制を導入するのに法的規制をクリアしたとしても、制度設計や上司の対応によっては社員の不満を招いたり、長時間労働も生じやすい。
自由度の高い働き方を促進することで社員のエンゲージメントやイノベーション、ひいては生産性の向上を図ることが裁量労働制の目的であるが、運用しだいで逆の結果をもたらすリスクもある。
次回の記事では、実際に裁量労働制を導入している企業の事例を紹介しながら、成功のポイントについて考えてみたい。
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