国鉄最後のSLから40年以上、成功している「SL運行」の共通点は:「地理的条件」が重要(3/4 ページ)
多くの鉄道会社がSLを運行する中、成功しているSL運行に共通していることとは。苦難を乗り越えながら持続している車両を見てみると……。
東武鉄道のSL運行における戦略性と優位性
近年のSL運行での成功例として、東武鉄道の「SL大樹」が挙げられる。現状は2両体制での運行を行っており、実は1両「C11形325号機」は真岡鐡道より購入、もう1両「C11形207号機」はJR北海道より借りている。現在、SLの安定的な運行体制を確保するために、「C11形123号機」の復元を手掛け、22年7月に運行を開始する予定となっている。
東武鉄道の「SL大樹」運行は、鉄道文化の維持発展と、日光・鬼怒川地域の観光振興を目的としたものであり、そのために東武鉄道はかなりのお金をかけた。
下今市駅にはSL関連の資料館や、転車台・車庫の見学施設などを設け、鬼怒川温泉駅にはわざわざ観光客が見えるような場所に転車台を設けた。車両も、14系客車を購入し整備するだけではなく、JR四国から12系客車の展望車化改造をした車両を譲受し、さまざまな楽しみ方をしてもらえるように工夫している。
だがそのこと自体が優位性をもたらすとは考えにくい。東武鉄道がSL運行に際して最適な場所なのは、立地である。人口の多い東京から適度な距離があり、しかもSLに乗ろうとする人の多くが東武鉄道を利用して日光・鬼怒川エリアにやってくるようになっているからだ。
東武鉄道は、SL列車に乗車する人から運賃を取れるだけではなく、そこにやってくる人たちからもまた、お金が取れる。しかも、特急列車に乗って来る人が多い。東京からの距離がある程度あり、自社で特急を運行し、そこで集客できるというのが、東武鉄道の強みである。
しかも東武鉄道の場合、短区間を1日に数往復するスタイルとなっており、日光・鬼怒川エリアの観光と組み合わせることも可能である。スケジュールに合わせて、都合のいい時間に乗りに来ることも可能だ。
ほかのSL運行では、1日に1往復が限界であり、何度も人を乗せて往復して稼ぐことは困難である。その意味では、「SL大樹」は立地条件を生かした最高のSL運行であるといえるのだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
知床遊覧船のような「観光ブラック企業」は、どのような特徴があるのか
北海道の知床半島沖で26人が乗った観光船が沈没した事故で、運営会社「知床遊覧船」のブラックぶりが次々と明らかになっている。「観光ブラック企業」にどのような特徴があるのか。知床遊覧船の公式WebサイトやSNSを見ると、そのヒントが詰まっていて……。
次の「新幹線」はどこか 計画をまとめると“本命”が見えてきた?
西九州新幹線開業、北陸新幹線敦賀延伸の開業時期が近づいている。そこで今回は、新幹線基本計画路線の現在の動きをまとめてみた。新幹線の構想は各県にあるが、計画は「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」として告示されている。これと費用便益比、各地のロビー活動の現状などから、今後を占ってみたい。
『サザエさん』『ドラえもん』『ちびまる子ちゃん』『クレヨンしんちゃん』――最も高い家に住んでいるのは? 査定してみた
国民的アニメの主人公は、どんな家に住んでいるのでしょうか? 『サザエさん』『ドラえもん』『ちびまる子ちゃん』『クレヨンしんちゃん』の自宅を査定したところ……。
東京メトロ「有楽町線」「南北線」の延伸で、どうなる?
東京メトロ有楽町線と南北線の延伸が決定した。コロナ禍で事業環境が大きく変化する中、東京メトロが計画する今後の戦略とは。
中央快速線E233系にトイレ設置、なんのために?
JR東日本の中央線快速で、トイレの使用が可能になることをご存じだろうか。「通勤電車にトイレ?」と思われた人もいるかもしれないが、なぜトイレを導入するのか。その背景に迫る。
