人命を預かる仕事の重さとは? 新人CAをハッとさせたコックピットの「黒いカバン」:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/4 ページ)
知床遊覧船の痛ましい事故のニュースを聞いたとき、筆者が「真っ先に浮かんだ」というのは、航空会社での勤務時に見ていた、フライトエンジニアが持つ“黒いカバン”だ。それはどのようなものかというと──。
タイレノール毒物混入事件から学ぶこと
米製薬大手ジョンソン・エンド・ジョンソンの「タイレノール毒物混入事件」をご存じでしょうか? 「タイレノールExtra Strength (Capsule)」は、米国のどこの家庭にも常備されているような、大きなシェアを持つ頭痛薬です。
そのタイノレールを服用した人が、7人も死亡する事件が、1982年9月に起きてしまったのです。
そこで、ジョンソン・エンド・ジョンソンは、直ちに全製品の製造・販売の中止を決定し、事件の報道からわずか1時間後には全米のラジオ・テレビを通じて製品の使用中止を呼びかけました。
衛星放送を使った30都市にわたる同時放送、専用フリーダイヤルの設置、新聞の一面広告、TV放映(全米85%の世帯が2.5回見た計算になる露出回数)などの対策を次々に講じました。注意などを呼びかけた報道数は、ジョン・F・ケネディ元大統領の暗殺事件以来の数と言われ、12万5000件以上だったとされています。
CEO(最高経営責任者)のジェームズ・バーク会長は、製品の使用中止を国民に呼びかけると同時に、直ちに経営者会議を招集。グループ企業の1万人の全社員に向かって、国民に徹底的に「商品を飲まないように!」と情報を流すことを促し、市場の全てからタイレノールを引き上げるよう指示しました。
グループ企業での製造、関連会社での販売も、直ちに中止させました。さらに、製品の回収に1億ドルの費用を投じ、企業秘密ともされていたデータを自ら進んで検査機関に報告したとされています。
当時は、リスクマネジメントとか、コンプライアンスという概念は一般化されておらず、「企業が疑わしい」というだけの段階で製品の全てを市場から回収するなど、前例のない決断でした。
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