賠償金や訴訟費用に備え、加入する企業が増加中 「ハラスメント保険」とは?:弁護士・佐藤みのり「レッドカードなハラスメント」(1/2 ページ)
パワハラ防止法におけるハラスメント防止措置が中小企業にも適用されるなど、企業のハラスメントに対する厳格な対処がより一層求められています。こうした流れを背景に、「ハラスメント保険」に加入する企業が増えています。
連載:弁護士・佐藤みのり「レッドカードなハラスメント」:
ハラスメント問題やコンプライアンス問題に詳しい弁護士・佐藤みのり先生が、ハラスメントの違法性や企業が取るべき対応について解説します。ハラスメントを「したくない上司」「させたくない人事」必読の連載です。
2022年4月1日より、パワハラ防止法(正式名称「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」)に基づき、中小企業もパワーハラスメント防止措置を講じることが義務付けられました。
こうした背景もあってか、「ハラスメント保険(雇用慣行賠償責任補償特約)」に加入する企業が増えています。
さまざまな保険会社が商品化しているハラスメント保険ですが、損害保険会社大手4社(東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険)の合算した契約件数は、15年度には1.7万件だったのに対し、20年度には8万件に迫り、4倍以上に拡大しているということです(※1)。
(※1)出典:「パワハラ防止法」が中小企業にも ハラスメント保険に殺到 不安に陥る日本企業/日経ビジネス、22年3月18日
しかし、パワハラ行為者が「保険もあるし、どうせ会社がなんとかしてくれるから」と思ってしまうなど、逆効果にはならないのでしょうか。詳しい保障の内容や、大まかな金額についても見ていきます。
ハラスメント相談は増加傾向 企業は備えが必要に
厚生労働省によると、職場のハラスメント相談は18年度に初めて8万件を上回り、増加傾向にあります。社会全体のハラスメントに対する問題意識が高まったことや、「パワハラ」が法律で定義されたことなどにより、被害者が声を上げやすくなったことが背景にあるでしょう。それは、同時に、事業主が管理責任を問われやすくなったということでもあります。ハラスメント関連のトラブルに備えることが、あらゆる企業にとって、非常に重要になっているのです。
補償の主な内容は
ハラスメント保険は、企業が訴えられ、ハラスメントに関して損害賠償責任を負った場合、賠償金を補填したり、弁護士費用を賄ったりするものです。他に、ハラスメント被害に遭った個人が、弁護士に相談する際にかかる費用を補償するタイプもあります。
従業員がハラスメント行為をすると、企業は使用者責任を負ったり、安全配慮義務違反の責任を問われたりすることがあります。ハラスメントの被害者である従業員が死亡したケースなどでは、賠償金が数千万円に及ぶことも少なくなく、会社経営にも影響を及ぼしかねません。
ハラスメント保険に加入しておくと、契約で定めた保険金額を上限に、企業に支払い義務が認められた賠償額や、訴訟でかかった弁護士費用が支払われます。例えば、従業員1000人規模の製造業であれば、年間保険料が90万円ほどであり、3000万円(免責10万円)を上限に補償されるのが相場です。
業種や規模にもよりますが、中小企業向けに、月払い保険料が数千円、年間保険料が数万円で加入できるものもあります。割引がきくこともあるので、加入を検討する際は、事前に見積もりを取って比較することが大切でしょう。なお、保険料は、企業のハラスメント防止体制や過去の発生件数などが考慮され、変わることもあります。
ちなみに、ハラスメントの加害者である従業員個人も、損害賠償責任を追及されることがありますが、加害者個人の賠償金について、ハラスメント保険は補償しないということです。「ハラスメントをしても、企業が入っている保険で賄われるから構わない」として、逆にハラスメントが増えたり、悪化したりすると困るからです。
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