「裁量労働制=悪」ではない うまく運用できる企業の“4つの特徴”:これからの「労働時間」(3)(2/4 ページ)
働きすぎによる健康被害の懸念など、批判されることの多い「裁量労働制」。しかし、柔軟な働き方に満足している人も多い。うまく運用できる企業とそうでない企業の違いはどこにあるのか。実際の事例を参考に、人事ジャーナリストの溝上憲文氏が解説する。
うまく運用している企業のケーススタディー
では実際に企業はどのように制度を運用しているのか。前出の検討会が実施した企業ヒアリングについて(1)みなし労働時間、(2)対象社員と適用の可否、(3)裁量労働手当、(4)労働時間管理と健康確保、(5)裁量労働制の課題――の5つの指標をもとに検証してみよう。
A社
電気機械器具製造業、従業員数1万人以上、裁量労働制適用者は全体の30%強
(1)みなし労働時間
みなし労働時間は1日当たり7時間45分(所定労働時間)法定休日を除く。
(2)対象社員と適用の可否
対象者は自社の職能等級に基づいて、裁量労働制を適用することにより従来以上に業務効率の向上が期待できると会社が認定した者。原則として半年に1回本人確認を実施し、適用可否を判断。本人から適用除外の申請があった場合、月単位で適用除外とする。
(3)裁量労働手当
毎月、裁量労働手当として基本給の3割程度を支給。
(4)労働時間管理と健康確保
始業・終業時刻は、PCの起動終了時刻を元に把握し、法定休日と深夜労働についても労働時間を管理。所定労働時間を超えた時間が月80時間超の場合、自動的に翌月から適用除外にしている。
また、月80時間以上または3カ月連続で月60時間以上になった場合、産業医などによる健康診断や面接指導を実施。この水準に達する一定時間前に、勤怠管理システムを通じて本人または上長にアラートを発信している。
(5)裁量労働制の課題
裁量労働制の運用を通じて「対象者が制度をよく理解していない状況がある場合、もしくは制度として理解されていても、対象部署の人たちの業務が忙し過ぎて結果として裁量労働制にそぐわない状況となることが見込まれているのであれば、無理強いはしないことが必要だ」と言っている。さらにリモートワーク下の時間管理についても触れている。「出社時と比べて厳密な労働時間管理が難しく、それが長時間労働を招くことも懸念されているため、労働状況の把握や健康管理措置について、労使でしっかりと議論し、的確・厳格に運用することが重要」と述べている。
B社
金融業、従業員数3000人、裁量労働制適用者全体の1%
(1)みなし労働時間
みなし労働時間は1日あたり9時間。
(2)対象社員と適用の可否
対象部署は、基本的に業務部門全体もしくは会社全体に影響を与えるような業務を所管している部署。対象者は当該部署に所属している総合職、いわゆる全国転勤型の社員。新規学卒入社7年目までの社員と管理職は対象外としている。
制度適用の手続きは、まず人事部から対象部署の部長に適用候補者リストを送り、適用候補者本人と部長で話をした上で、本人が希望する場合は、本人の業務内容や上司の指示の有無・程度について、本人と上司の認識が合っていれば、部長から人事部に適用の申請を行う。人事部で問題なしと確認されると、適用を承認し、適用者を確定する。不同意者については、通常の時間外勤務対象者として取り扱う。また、適用開始以降も、問題があれば適用を解除する可能性があることも周知している。適用後も本人が解除したい場合、同意撤回書を提出すると、翌月から解除される。
(3)裁量労働手当
裁量労働手当として、所定時間外労働の45時間相当を手当として支給している。
(4)労働時間管理と健康確保
労働時間管理については、働く時間配分は適用者の裁量に任せるが、実際の始業終業時間や中抜け時間を適用者自身が勤務表に入力することにしている。また、健康確保措置では、人事部から「疲労蓄積度自己診断チェックシート」をメールで送付。法定時間外労働が単月で80時間超、または3カ月平均で70時間超の社員などを対象に、産業医が健康診断や人間ドックの結果を含めて健康指導や面談が必要と判断した場合、面談を勧奨。裁量労働制を適用し続けるのは健康上の懸念がある場合は適用解除することにしている。
A社とB社の違い
いずれもヒアリングに呼ばれるくらいなので裁量労働制の運用が比較的うまく行われている企業と推測される。
A社は社員の30%が裁量労働制適用者であるが、おそらく導入企業の中で多い部類に入る。逆にB社は金融業という業種の事情もあるのか、対象者を絞って厳格に運用しているのが特徴だ。
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