悩みがあった東武鉄道にとって、東京スカイツリーはどんな存在になったのか:開業10周年(4/4 ページ)
開業10周年を迎えた東京スカイツリー。「とうきょうスカイツリー駅」や商業施設を含む「東京スカイツリータウン」を運営する東武鉄道から見た戦略的意義とは。
東武鉄道には悩みがあった
鉄道のターミナルは、繁華街やオフィス街に直結し、系列の百貨店があることが多い。東武鉄道の浅草に百貨店の松屋浅草があるものの、東武鉄道は一部を出資しているだけである。なお、東武鉄道系列の東武百貨店は池袋や船橋にあり、東武鉄道の完全子会社である。
ほかの私鉄のターミナルは、山手線もしくはその近くに駅があることが多く、東武は山手線から距離が離れていた。東武鉄道の利用者も、北千住から東京メトロ日比谷線に乗り入れたり、押上から東京メトロ半蔵門線に乗り入れたりと、浅草を経由しないルートを使用するケースが多い。ターミナル駅の存在感が薄くなりつつあるという悩みがあった。
かといって、ほかの私鉄や東武東上線のように、10両編成の車両がターミナル駅に乗り入れるのも浅草駅では不可能だ。浅草駅は完成当時としては大きな駅だったものの、今となってはコンパクトなターミナルである。
東京のほかの繁華街に比べて、見劣りがする浅草・下町エリアをどう盛り上げるかに、東京スカイツリーは寄与しているのである。
とうきょうスカイツリー駅には特急列車も停車する。東武鉄道は日光・鬼怒川エリアという観光地を沿線に抱えているものの、東京スカイツリーができたことによって都心側にも観光地を設けることができ、都心への観光需要という新たな需要を生み出した。
鉄道自体も、「東武伊勢崎線」に「東武スカイツリーライン」という別名を付け、東京スカイツリーが沿線にあることをアピール。以前は「スカイツリートレイン」という列車を走らせていて、現在では「スカイツリーライナー」という特急もある。
東京スカイツリーの開業によって、東武鉄道のイメージはがらりと変わり、東武鉄道の存在感を高めることができた。また、下町エリアの地位向上を果たすことで、地域にもポジティブな影響を与えた。このプロジェクトを東武鉄道が担うことは、企業戦略の上で大きな意味があったのだ。
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