「部下に退職代行を使われた」 無理やり本人を出勤させることはできるのか?:退職代行会社とのやり取りはどうする?(3/3 ページ)
退職の申し出をする際に退職代行サービスを利用する人が増えてきたという意見を耳にする。退職代行会社から連絡が来ても本人を出勤させることはできる? 引き継ぎはどうすべき? などの疑問を社労士が解説。
準備しておけばよかった…退職代行サービスへの備え
退職代行会社からの退職の申し出に対して、「あらかじめ用意しておいた方が良かった……」という声が多かった内容を紹介します。
1. 緊急連絡先の把握
退職代行会社から連絡があっても本人の意思確認ができない場合、会社は身動きが取れなくなります。そこで本人に電話をするのですが、ほとんどのケースで本人が電話に出ることはありません。
このようなときに頼りになるのが、緊急連絡先です。緊急連絡先に電話をして本人の退職意思が確認できれば、安心して退職手続きを進めることができます。会社からの連絡手段が労働者の携帯電話のみでは、通常の労務管理上も困るケースが少なくありません。雇い入れのタイミングで、緊急連絡先を確認しておきましょう。
2. 年次有給休暇の管理
退職代行サービスでは、年次有給休暇の残りの日数を全て使用することを求めてきます。有休の残日数について、労働者側の主張と食い違いが生じた場合、過去の使用実績の説明が求められますので“年次有給休暇管理簿”が必要になります。
年次有給休暇管理簿の作成は2019年4月から義務化されています。もし未整備であれば急いで準備しましょう。
3. 退職金規定の整備
退職金制度がある会社では、会社に損害を与えるような辞め方をした労働者に対して、退職金を払うことに抵抗を覚えることもあるでしょう。「退職代行サービスを利用したから」という理由だけで退職金を減額することは、認められにくいと考えますが、引き継ぎをきちんと行わなかったという理由で減額することは問題ありません。ただ、実際に減額するには、その内容が退職金規程に明記されている必要があります。
引き継ぎのルール、引き継ぎが未完了の際の退職金額の計算方法などをあらかじめ定めておきましょう。
円満退社してもらうには?
退職代行サービスへの備えをお伝えしましたが、結局のところ退職代行サービスを使われてしまえば、十分な引き継ぎは望めません。引き継ぎが不十分な場合、取引先からのクレームにつながる可能性もありますし、せっかく積み上げたノウハウが社内に蓄積されないことになりますから、会社にとって大きな痛手です。
よって、退職代行サービスが使われない退職、すなわち“円満退職”を目指すことが大事です。円満退職であれば、後任者が仕事で悩みを抱えたときに退職している前任者を食事に誘って相談に乗ってもらうようなこともできるでしょうし、退職者にとっても前職の実績を堂々と語ることができるので今後の社会人生活において大きなメリットとなるでしょう。
円満退職のために会社がやるべき効果的な取り組みとして定期面談があります。「明日にでも辞めたい」と切羽詰まった労働者は、引き継ぎのことなど考える余裕がないでしょうし、この延長線上に退職代行サービスの活用があります。
「辞めたいです」と相談されるのを待つのではなく、定期面談を通じて従業員が抱える小さな不満、悩みなどを把握し、改善に努めましょう。これで不本意な人材の流出を予防することができます。結果的に退職という道を選んだとしても、計画的に引き継ぎを進めることができます。
退職代行サービスの話に限らず、人材の流動化が進む昨今において、“退職”というマイナスのイベントをいかに円満に終わらせるかというスキルは、事業の成長にとってますます重要なものになります。
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