VTuber「にじさんじ」が上場、時価総額1600億円に達したワケ:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(4/4 ページ)
仮想世界で活躍する著名タレントを擁する、バーチャルYouTuber(VTuber)事務所「にじさんじ」を運営する「ANYCOLOR」が6月8日に上場した。初日は制限値幅一杯でも値段がつかず、当初の想定時価総額450億円から、9日時点の時価総額は1600億円にまで達した。
VTuber事務所の課題
そんな破竹の勢いで進撃する「にじさんじ」にも課題はある。大きなリスクは炎上リスクと、ライバーの引退リスクだ。
ANYCOLORの収益のほとんどが、ライバー人気に下支えされた企業との案件や投げ銭に依存していることから、ひとたび大きな炎上事案が発生すれば「ファン離れ」と「企業PR案件の減少による業績への悪影響」というダブルパンチを受けることになる。
タレントの引退リスクにも注意しなければならない。UUUMでは、所属YouTuberが同社のマネジメント体制に不満を感じ、脱退が相次いだことなどもあり、時価総額が上場時の1000億円超から300億円まで大幅に縮小している。
VTuber事務所の場合は、モデルやイラストの権利をVTuber事務所側が押さえているため、モデルとイラストを持ってソロ活動デビューすることが難しい。そのため通常のYouTuberに比べて脱退リスクは小さいと考えられるものの、にじさんじでは、御伽原江良氏や鈴原るる氏といった有名“VTuberの魂”(注:いわゆる『中の人』だが、VTuberは人間であるため、『中の人』という概念が存在しないため、魂と呼ばれる)が、別の形で“転生”するといったパターンも発生している。
VTuberの所属タレントの多くは正社員ではなく、業務委託の個人事業主として契約しているパターンが多い。そしてファンも、確かに初めは「イラストが可愛い」といった動機で配信を見るパターンもあるだろうが、やはり本質はその人自身のトークスキルや可愛らしさ、かっこよさといった部分に惹かれるわけだ。
そうすると、いかにモデル、「ガワ」の権利が押さえられていても引退・転生リスクを大幅に減らすことは難しい。そんな時、事務所としては炎上リスクや引退リスクを抑えるためにマネジメントの腕が問われることとなる。
ANYCOLORは今回のIPOで19.9億円を市場から調達した。その使徒は「事業拡大にかかわる採用費及び人件費に充当する予定」という。そうすると、ANYCOLORのマネジメント体制は上場を機にさらに強化されてくることになるだろう。
直近では、お嬢様言葉を放つにじさんじの注目新人、壱百満天原(ひゃくまんてんばら)サロメ氏が、デビューから14日で100万登録を達成した。今後の彼女の活躍にも期待がかかる。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCFO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CFOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
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