東京支社の立ち上げを計画 「地域手当」は支払うべきか?:Q&A 総務・人事の相談所(3/3 ページ)
京都府に本社を置く中小企業が新たに東京に支社を設けることに。社員に転勤してもらうつもりだが、地域手当は支払うべきでしょうか?
地域手当の運用ルールを工夫する
地域手当の支給目的を明確にし、社員へも説明のしやすい形で導入ができたとしても、地域手当はその性質上どうしても実際の運用面で注意すべき点があります。特に、以下のような点は運用面で陥りやすい典型的な課題です。
1. 地域手当が減額になる場合の扱いはどうする?
例えば、A地域とB地域には地域手当差が2万円あるとします。冒頭の質問の逆を想定していただくとよいのですが、地域手当の高い方から低い方に異動する場合には、賃金が2万円下がることになります。これは制度がそうなっているので当たり前なのですが、賃金ダウンを避けるために異動後も調整給で減額分を穴埋めする、という本来の制度趣旨からずれた運用をしている企業も少なくありません。
制度上、その差額を調整給で支給する必要はないものの、対象者に気持ちよく異動してもらうためにルール外の運用を適用してしまうことが往々にしてあります。ただ、そうなると逆に地域手当が付いている社員との不公平感が新たに発生してしまうため、地域手当の意義について再検討が必要になります。
対策としては、当たり前ですが制度通りに運用すると割り切ることが必要でしょう。あるいは、一度でも異動したことのある社員については、地域手当の一定額を固定分として支給したり、仮に減額になる場合も一定期間に限り減額しない時限的措置を設けたりするなど、影響を少しでも抑える策を講じた事例もあります。
2. 同一労働同一賃金の問題が生じる可能性も?
そのほか、同一労働同一賃金の観点から問題になるケースもあります。具体的には、正社員には地域手当は支給するが、非正規社員には支給しない、といったパターンです。地域手当を「地域による生活支出の差を埋めるため」と定義した場合、「同じエリアで生活しているのに、なぜ正社員だけ生活保障があるのか」を明確に説明することは困難でしょう。
国の定める同一労働同一賃金に関するガイドラインにも、「通常の労働者と同一の地域で働く短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の地域手当を支給しなければならない」と記されています。これらの点からも、正社員の生活保障だけにフォーカスした地域手当の設計には慎重な議論が必要ですし、場合によっては早急に改定が必要になる場合もあります。
著者紹介:森中謙介(もりなか・けんすけ)
(株)新経営サービス 人事戦略研究所 マネージングコンサルタント。中堅・中小企業への人事制度構築・改善のコンサルティングを中心に活躍。各社の実態に沿った、シンプルで運用しやすい人事制度づくりに定評がある。近年では、シニア社員活用に向けた人事制度改定の支援に多く携わっている。「定年再雇用・定年延長制度コンサルティング」に関する問い合わせはこちらまで。
また、書籍やセミナー等を通じた対外的な発信も積極的に行っており、著書に『人手不足を円満解決 現状分析から始めるシニア再雇用・定年延長』(第一法規)、『社員300名までの人事評価・賃金制度入門』(中央経済社)、『9割の会社が人事評価制度で失敗する理由』(あさ出版)、『社内評価の強化書』(三笠書房) がある。
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