日本のクラウンから世界のクラウンに その戦略を解剖する(2):池田直渡「週刊モータージャーナル」(7/7 ページ)
1955年のデビュー以来67年15世代に渡って、クラウンは日本国内専用モデルであり続けた。しかし国内のセダンマーケットはシュリンクの一途をたどっている。早晩「車種を開発生産していくコスト」を、国内販売だけで回収することは不可能になる。どうしてもクラウンを存続させていこうとすれば、もっと大きな世界のマーケットで売るしか出口がない。
4モデルのパワートレインは?
そう思って見直すと、クラウン・クロスオーバーはセダンの新解釈、クラウン・セダンは保守的なセダンだ。現代においてセダン的に受け取られているSUVにはクラウン・スポーツをぶつけて、さらに隣接ジャンルのワゴンで念を入れる。
そしてこれらに多彩なパワートレインを組み合わせる。それは地域によっての嗜好とエネルギー事情に即した製品を全域でカバーするためだ。
おそらくグローバルカーとしてのクラウンが狙うマーケットは、日米中豪、それにASEAN辺りだろう。欧州はどうするのかちょっと見えてこない。
その前に4モデルのパワートレインはどうなるのだろうか? クラウン・クロスオーバーは2種類のハイブリッドを基本に置きながら、おそらくはPHEVとBEVのバリエーションを追加していくだろう。これはおそらく全地域で戦う主力モデルである。
クラウン・セダンはおそらくFCVオンリーだと思う。エンジンコンパートメントも燃料タンクも特異なので、あれにバリエーションの追加は難しい。メインマーケットは水素政策に力を入れている中国、次いで日本。場合によっては北米や欧州もあるかもしれない。
クラウン・スポーツは恐らくハイブリッドだが、クロスオーバーのように2種類のパワートレインが用意されるかどうかは分からない。PHEVとBEVは検討しているだろうと思う。こちらは前席優先のスポーツSUVというコンセプトからして普通に考えればメインターゲットは北米である。そこはマスト。だが余力があれば日本や中国でも売りたいクルマだろう。
いろんなことが見えてこないのがエステートで、これはおそらく基本はクロスオーバーと同等の構成になるのではないか? エリアはどうなのかといえば、これが一番読めない。本来ステーションワゴンの母国は北米なのだが、いまそこにマーケットがあるかというと少し疑わしい。ただ、アウトドアやスポーツギアの運搬車としてのライフスタイルワゴンは常に一定の需要があるともいえる。
さて、今回は物量作戦で臨むクラウンのグローバル政策について考察してきた。次回は、なぜトヨタはこれほどまでにクラウンにこだわるのかから始めていくつもりである。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
関連記事
- セダンの再発明に挑むクラウン(1)
クルマの業界ではいま、クラウンの話題で持ちきりである。何でこんなにクラウンが注目されているのかだ。やっぱり一番デカいのは「ついにクラウンがセダンを止める」という点だろう。 - なぜ、そうまでしてクラウンを残したいのか?(3)
それほどの大仕掛けをしてまで、果たしてクラウンを残す意味があるのかと思う人もいるだろう。今回のクロスオーバーを否定的に捉える人の中には、「伝統的なセダン、クラウンらしいクラウンが売れないのなら、潔く打ち切ればいい。クラウンとは思えないクルマに無理矢理クラウンを名乗らせて延命する意味はない」という声も少なからずあった。 - SUVが売れる理由、セダンが売れない理由
セダンが売れない。一部の新興国を除いてすでに世界的な潮流になっているが、最初にセダンの没落が始まったのは多分日本だ。そしてセダンに代わったミニバンのマーケットを、現在侵食しているのはSUVだ。 - 見違えるほどのクラウン、吠える豊田章男自工会会長
2018年の「週刊モータージャーナル」の記事本数は62本。アクセスランキングトップ10になったのは何か? さらにトップ3を抜粋して解説を加える。 - え!? これクラウンだよな?
トヨタのクラウンが劇的な進化を遂げた。今まで「国産車は走りの面でレベルが低い」とBMWを買っていた人にとっては、コストパフォーマンスがはるかに高いスポーツセダンの選択肢になる可能性が十分にあるのだ。 - プレミアムって何だ? レクサスブランドについて考える
すでに昨年のことになるが、レクサスの新型NXに試乗してきた。レクサスは言うまでもなく、トヨタのプレミアムブランドである。そもそもプレミアムとは何か? 非常に聞こえが悪いのだが「中身以上の値段で売る」ことこそがプレミアムである。 - トヨタはプレミアムビジネスというものが全く分かっていない(後編)
前回はGRMNヤリスがどうスゴいのかと、叩き売り同然のバーゲンプライスであることを書いた。そして「販売のトヨタ」ともあろうものが、売る方において全く無策ではないか? ということもだ。ということで、後半ではトヨタはGRMNヤリスをどう売るべきだったのかを書いていきたい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.