都心新築オフィス、4割近くが空室に……空室率、リーマンショック時に迫る:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
毎月、オフィスビルの空室率を公表している三鬼商事によれば、22年6月時点の東京都心5区における平均空室率は6.39%となった。ここ15年では、リーマンショック相場の08年以降に次ぐ空室率の高さが続いている。オフィスビルの空室率や平均賃料の側面から、08年当時との状況を比較しておきたい。
平均賃料も急速にピークアウト
そして、平均賃料の指標からは、家賃を値引きしてでも入居してもらいたいという貸ビルオーナーの「焦り」も垣間見える。
三鬼商事のデータによれば、22年6月の平均賃料は1坪あたり2万0273円となった。グラフからは20年7月の最高値であった2万3014円から1年で急速にピークアウトしている様子がうかがえる。
それ以前の最高値は、リーマンショックの年となった08年8月の1坪あたり2万2901円だった。奇しくも時期と価格の両面で、足元と過去の経済ショックがほぼ重なって見えてくるのではないだろうか。
翌年にもオフィス供給は止まらない
ここまでのデータを確認すると、オフィスビルのダブつきは避けられないとも思われるが、そんな状態にあってもオフィスビルの新規供給は止まらない。
ザイマックス不動産総合研究所が公表した「オフィス新規供給量2022」によれば、23年の東京23区における賃貸オフィスの新規供給面積は23.1万坪と、22年から25年までの予測値では最高となる見込みだ。
そのうち87%が、三鬼商事のデータでも集計対象となっていた都心主要5区に集中することになる。特に、港区六本木や麻布の供給シェアは、向こう4年で8万坪と最大の供給増となる見通しで、それに日本橋や八重洲、京橋のような東京駅エリアが続く。
他にも足元では東京23区の各地で再開発が予定されており、中でも虎ノ門や麻布のような都心エリアにおけるオフィス面積の大幅な供給増が予定されている。空室率の上昇ないしは賃料の下落は避けられないといっても過言ではないだろう。
長期運用が前提となる、大企業向けの賃貸用オフィスビルについては、仮に足元の景気動向が不安定であっても、将来の景気回復局面で需要が回復したり、賃料相場の上昇でそれまでの逸失利益や損失をカバーできる可能性がある。
ただし今回の空室率上昇は、どちらかといえばコロナ禍の長期化に伴う「都心離れ」の動きや「出社メインの働き方からの脱却」という社会的テーマの変遷に伴う要素がまず存在し、そこに景気後退懸念が重なっているという形となっている。
やもすれば今後、景気後退から立ち直っても、都心オフィス需要の戻り足は鈍る恐れもある。
コロナ前には、都内のさまざまな地域で再開発や新築ビルの建設を目にするようになっていたが、それらの計画はいずれもコロナ禍の発生を織り込んではいなかった。これまでは、画一的な「大型オフィス」の提供がメインだったのだ。しかし、このような業態の場合、立地が同じであれば家賃の値下げで他社との差別化を図らざるを得なくなる。
オフィスの供給側としては、今後予期される競争の激化に対応するために、レンタルオフィスやコワーキングスペースのような新しい働き方に対応したオフィススペースの提供や、新たな付加価値の提供によって空室を埋めていく方策が求められてくるだろう。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCFO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CFOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
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