問題行動の多い社員のシフトを無断でカット 賃金補償の義務は生じる?:判例に学ぶ「シフト制」(5/5 ページ)
シフト制の揉め事の一つであるシフトカット、労働契約書に「出勤日は会社が作成するシフトによる」と定めていれば、理屈上シフトカットは可能。しかし、状況によっては会社に賃金補償の義務が生じるケースもあるという。社会保険労務士が判例を基に解説する。
シフトカットの前に注意すべきポイント
シフト制の基本構造を抑えた上で、紹介した2つの判例から重要なポイントを確認しましょう。
1:裁判でシフト制の労働者の所定労働日数を確定する場合は、過去の実績を基に決められる可能性が高い
例外的に会社が時給4000円の専門性の高い労働者と勤務スケジュールや業務内容について合意する運用をしていたケースでは、出勤実態ではなく、既にシフトで出勤日となっている部分のみを労働日と認定するケースもありました(参考:東京地裁 20年3月3日)。ただ、会社の裁量範囲が広く、労働者が決められたシフトに原則従う一般的な運用の場合は、過去の働き方から所定労働日数などを判断されることになりそうです。
2:制裁的なシフトカットは就業規則に基づかないため、懲戒処分として認められない
シフト制の場合、問題行動がある労働者に対して、いわゆるシフトカットで勤務日数を減らし、労働契約の自然消滅を狙うことがありますが、これは合理性のない制裁とみなされ認められません。よって、問題行動については就業規則に則り、正しい手順で懲戒処分を科すことが必要です。
また、シフト制の労働者とは6カ月などの期間を定めて有期労働契約を締結するケースが一般的ですが、初めの労働契約だけで、それ以降の更新手続きがされていないケースが散見されます。問題行動があってもシフトカットをすれば良いと安易に考えるのではなく、労働契約の更新のタイミングで、その更新の是非を判断しましょう。
3:従来のシフトを大幅に減らすには合理的な理由が求められる
シフト表の作成について会社の裁量を認める取り決めがあっても、無制限に認められるものではなく、過去の実績と比較して出勤日数などを大幅に削減するときは合理的な理由が必要になります。そして合理的な理由なくカットした場合は、カットした分の賃金の補償が必要になります。
何をもって合理的な理由と考えるかは、裁判を前提に考えるとケースバイケースですが、実務においては第三者に説明して理解されるレベルと考えると良いでしょう。そもそも、その状態であれば、労働者側も不満を抱きつつも一定の理解ができるので、裁判に発展する確率は極めて低いでしょう。
シフトの問題に限らず、労働条件の変更は、原則として労使の合意があれば可能ですから、裁判でどのように判断されるかよりも、個別の事情を抱える労働者とどうすれば合意できるかの視点が極めて重要です。シフト制は労使ともにメリットがある仕組みですから、共に利益を享受するという方針のもと上手く運用していきましょう。
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