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「土下座で済むならいいじゃないか」 迷惑客への土下座を促した店長はパワハラ?:法律事務所ZeLoに聞く!ハラスメントQ&A(2/3 ページ)
顧客がトラブルの末、従業員に土下座を要求。従業員の報告に店長は「土下座で済むならいいじゃないか」と取り合いませんでした。カスタマーハラスメントをする顧客から従業員を守らず、部下に対して土下座を促す行為は、パワハラでしょうか。
カスタマーハラスメントの対応策
前述したマニュアルに加え、カスタマーハラスメントに触れたハラスメント関係指針(「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」)では、会社は、顧客などからの著しい迷惑行為により従業員が就業環境を害されることのないよう、雇用管理上の配慮をすることが望ましいとされています。具体的には、
- (1)相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備する(相談先の策定・周知など)
- (2)被害者への配慮のための取り組み(メンタルヘルス不調への相談対応など)を行う
- (3)顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止するための取り組み(対応マニュアルの作成や研修など)を実施する
ことなどが挙げられています。さらに、これを受けた前述のマニュアルでは、企業が具体的に取り組むべきカスタマーハラスメント対策として、以下が挙げられています。
(1)事業主の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発
- 組織のトップが、カスタマーハラスメントから組織として従業員を守るという基本方針・基本姿勢を明確に示し、従業員の対応の在り方を従業員に周知・啓発し、教育する。
(2)従業員(被害者)のための相談対応体制の整備
- カスタマーハラスメントを受けた従業員が相談できるよう相談対応者を決めておく、または相談窓口を設置し、従業員に広く周知する。
- 相談対応者が相談の内容や状況に応じ適切に対応できるようにする。
(3)対応方法、手順の策定
- カスタマーハラスメント行為への対応体制、方法などを決めておく。
(4)社内対応ルールの従業員などへの教育・研修
- 顧客などからの迷惑行為、悪質なクレームへの社内における具体的な対応について、従業員を教育する。
(5)事実関係の正確な確認と事案への対応
- カスタマーハラスメントに該当するか否かを判断するため、顧客、従業員などからの情報をもとに、その行為が事実であるかを確かな証拠・証言に基づいて確認する。
- 確認した事実に基づき、商品に欠陥がある、またはサービスに過失がある場合は謝罪し、商品の交換・返金などに応じる。欠陥や過失がない場合は要求などに応じない。
(6)従業員への配慮の措置
- 被害を受けた従業員に対する配慮の措置を適正に行う(繰り返される不相当な行為には一人で対応させず、複数名で、あるいは組織的に対応する。メンタルヘルス不調への対応など)。
(7)再発防止のための取り組み
- 同様の問題が発生することを防ぐため、定期的な取り組みの見直しや改善を行い、継続的に取り組みを行う。
(8)(1)〜(7)までの措置と併せて講ずべき措置
- 相談者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、従業員に周知する。
- 相談したことなどを理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、従業員に周知する。
実際に、会社としてカスタマーハラスメント対策を十分に講じていなければ、安全配慮義務違反として損害賠償責任が認められる場合もありますので、注意が必要です(労働契約法5条)。
また、カスタマーハラスメントについては、このように会社としての対策が必要なだけでなく、個々の従業員が適切に対応できるようになっておく必要があります。ここで今回の事例を見てみましょう。
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