1日600箱以上売れる「ウイロバー」 ヒットを生んだ老舗・大須ういろの危機感:地域経済の底力(2/4 ページ)
ういろの老舗、大須ういろが2015年に発売したウイロバー。販売初日にいきなり150箱売れて、コロナ直前は年間24万箱まで売れた。今や集客装置となった、この新商品開発の裏側には、「このままでは先がない」という同社の強い危機感があった。
職人が棒を1本ずつ手で刺している
大須ういろは、良くも悪くも昭和時代のお土産屋になっていた。顧客は高齢化が進み、若い人たちは見向きもしない。英里さんがまず取り組んだのは商品デザインの刷新だった。
「うちの商品はお菓子ですから、ショーケースを見たときに、おいしそうとか、かわいいとか、すてきとか、何かしらの要素がないといけません。個人的にはそれが一つもないように見えました」と英里さんは指摘する。
商品デザインを変えるとはいえ、いきなり全てに手をつけるのは至難の業。そこでモデルケースとなるような商品をゼロから作ることを決めた。
ターゲットは若い女性で、彼女たちが好むようなかわいらしく、キャッチーな商品を目指した。加えて、味はもとより、食べやすさも重視した。従来ういろはベタベタと粘着力があって切り分けにくい、食べづらいという声があり、買ってすぐに口に入れるような手軽さに欠けていた。それを踏まえて導き出されたのが、小型サイズのういろに棒を刺し込んだウイロバーの形状である。
とはいえ、単に既存のういろをそのまま流用し、パッケージデザインなどを変えるだけでは芸がない。味わいにも手を加えた。
「味や食感を変えるために中身も見直しました。例えば、さくら味のういろだったら、これまでは食紅をつけ、香料を入れて作っていたものを、きちんと桜の葉からエキスを抽出して、その葉も入れるようにしました。見た目にも注意を払い、自然なピンク色にしています」
一方で、同社のものづくりの精神は守った。ウイロバーは一つひとつ、職人が手作業で棒を刺すという徹底ぶり。後述するが、こうしなければウイロバーという商品は成立しない。食べやすくするためにただ棒を付けたという単純な話でもないのだ。
一見するとアイスキャンディーのようなウイロバーは、同社の商品群の中で異彩を放った。
「違和感を与えたかった。店の前を通っている人の足を止めたかった。そこにはデザインの力が必要だったのです」と英里さんは振り返る。
15年に発売すると、狙い通り、これまで同社に縁遠かった客層がウイロバーを買いにきた。
「キヨスクにやってきた若い女性が写真を撮っていたり、SNSを見て買っている子がいたりしました。明らかに今まではあり得なかった光景です。お店のベテランスタッフたちも、『(ういろを)かわいいと若い子たちが言うようになった』と喜んでいました」
商品のファンが増えるにつれ、消費者のSNSへの投稿内容にも変化が見られるようになった。
「最近Instagramで目に付く写真は、きちんと構図を考えて、きれいに撮ってくださっていてうれしく思います。客層の変化も感じています」
ウイロバーが引き付けたのは消費者だけではない。ゴディバやグッチといった高級ブランドの企業ともコラボ商品を作るようになったのだ。
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