トヨタのいう「原価低減」とは「値切る話」ではない 部品不足と価格高騰:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/7 ページ)
自動車メーカー各社は相次ぐ工場の稼働停止に苦しんでいる。まず部品がない。そして原材料からエネルギー、水に至るまであらゆるものが高騰している。相当に苦しい状況である。そんな中、トヨタが言う「原価低減」とはどういうことを意味しているのだろうか?
サプライヤーと一緒にコストダウンを考えないと、サプライヤーは潰れる
ここからは例としてトヨタの話になる。普通、自動車メーカーは調達領域の話は頑なに説明しない。どこに聞いても答えてはくれないが、今回のコロナ禍基点の部品調達問題が発生して以降、トヨタは少しずつ情報を開示するようになった。なので、情報を開示しているトヨタを例にとって話を進めるしか方法がない。
ただトヨタは少なくとも平均的自動車メーカーとはいえず、かなり特殊な部分があることはご承知置き願いたい。またトヨタの例をスタンダードにされては敵わないと思う他メーカーの方は、取材させてくれれば記事にするつもり満々でお待ちしている。
ついでにいえば、トヨタは、「サプライヤーに対して今年度の値下げ要求をしない」と発表したところ、これが大炎上した。まあそれはちょっと発表が無防備だったとは思う。要するに「値下げ要求しないとか上から目線だ。むしろ値上げしてやるべきだろう」という話である。
世の中は、値下げといえば、映画やドラマに出てくる大阪のおばちゃんが「もうちょい負けてーな」みたいな値下げの話だと思っている。そりゃ八百屋のおっちゃんだって「いや奥さん、堪忍、これ以上やすしたらうち潰れますわ」みたいになるのは当然といえば当然である。
いきなり大上段の話になるが、自動車メーカーの競争力の根源は生産にある。設計やセッティングが大事ではないとはいわないが、どんなに良くても高ければ客の手には届かない。憧れたところで、ほとんどの人はフェラーリもランボルギーニも買えない。自分の手の届く範囲でしか買わない。それは20世紀の初めにフォードが大量生産システムを構築してモデルTを発売して以来の真理である。
つまるところ「安く良いものを作る」ことが自動車メーカーの経営の根本なのだ。だから原価低減は絶対であり、トヨタは毎年毎年3000億円の原価低減を繰り返している。常識的に考えて、3000億円ずつ十年以上も原価低減ができるということが何を意味するか考えてみるといい。去年1個0.5円だったねじを、今年ただ値切って0.4円にすることでそんな金額は達成できるはずはないし、仮にただ値切るだけで毎年3000億円もコストを落としていたら、とっくに全てのサプライヤーが全滅している。
ではどうするか、トヨタはどうやったらサプライヤーの生産原価が下がるかを、エンジニアを現場に派遣してサプライヤーと一緒に考える。これに関してはだいぶ以前に、調達担当幹部に聞いたことがある。「先にサプライヤーと一緒にコストダウンの方法を考えてから、コストダウンの内輪で値段を下げてもらわないと、サプライヤーは潰れてしまいます。この順番は極めて大事なんです」
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