トヨタのいう「原価低減」とは「値切る話」ではない 部品不足と価格高騰:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/7 ページ)
自動車メーカー各社は相次ぐ工場の稼働停止に苦しんでいる。まず部品がない。そして原材料からエネルギー、水に至るまであらゆるものが高騰している。相当に苦しい状況である。そんな中、トヨタが言う「原価低減」とはどういうことを意味しているのだろうか?
規格統一によるコストダウンのための先行投資
それだけでなく発注のやり方も何も全てを常にカイゼンし続けている。例えば例に挙げたねじであれば、トヨタの全モデルに使われているねじを精査して、類似サイズのねじを規格化する。いままで1車種でしか使われていなかったねじが、例えば10車種で使われるようになり、生産ロットが激増する。のみならず、いままで多品種のねじを生産していたものが、種別が減ることでサプライヤーはラインの合理化が可能になり、設備のセッティングの切り替えの回数も減る。だからコストダウンができるわけだ。
もちろん設計の段階でも、毎回ねじを設計する必要がなくなり、汎用ねじの一覧から選ぶだけで事足りるので、ここでもコストダウンとスピードアップができる。
しかし、簡単に10車種のねじを共通化するといっても、モデルチェンジのタイミングは車種それぞれ違うので、共通規格のねじを追加した直後はむしろねじの種類が増えてしまう。そういうタイミングでは、トヨタはコストアップを受け入れ、時間を経てそれが統一されていく過程でコストを落としていく。
規格化のメリットはそれだけではない。規格部品が増えれば、輸送する部品のサイズのばらつきが減る。定型化である。その結果、輸送に使う通い箱(通函)のサイズバリエーションも減らせるし、箱のサイズが統一されれば1パレットに乗せられる量も効率化できる。なんならパレットのサイズバリエーションも減らせる。整理されたついでにパレットを重ね積み出来るように工夫すれば、トラック一台に積めるパレットの数が増えるし、ストックヤードの面積も減らせる。定型化は輸送の効率を圧倒的に上げるのだ。最早執念といっても過言ではない。トヨタのいう「原価低減」とはそういうことなのだ。そこを値切る話だと思っている限り理解できない。
そういう先行投資を、TNGAが始まった2013年頃から長期計画でずっと繰り返してきたのだ。まあトヨタが嫌らしいのは、何をどうするとコストがどうなるかのデータを全部持っているので、サプライヤーで落としたコストがいくらになるかは全部丸見えなことだ。コストダウンの、自社とサプライヤーの取り分も全部筒抜けということになる。持っていくものはちゃんと持っていく。
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