トヨタのいう「原価低減」とは「値切る話」ではない 部品不足と価格高騰:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/7 ページ)
自動車メーカー各社は相次ぐ工場の稼働停止に苦しんでいる。まず部品がない。そして原材料からエネルギー、水に至るまであらゆるものが高騰している。相当に苦しい状況である。そんな中、トヨタが言う「原価低減」とはどういうことを意味しているのだろうか?
コストダウンとはサプライヤーいじめではない
こういう話を理解するためには、そもそも全体構造を理解しておかなくてはならない。コストダウン=サプライヤーいじめと受け取る人は、そもそもメーカーとサプライヤーの取引構造をゼロサムゲームだと思っている。ゼロサムゲームとは自分の得点が相手の失点となるゲームのことだ。例えば綱引き。一方が引っぱった分、相手方は引っぱられる。
最初の図をもう一度見てほしい。サプライヤーにとっても販売数の減少はデメリットなのだ。単価だけに注目しても仕方がない。単価×数量がサプライヤーの利益指標である。だから、仮に仕入れ原価を単純に値上げできても、その結果クルマが値上がりして売れなくなっては元も子もない。つまり本質的なゲーム構造はゼロサムゲームではなく、メーカーとサプライヤーの協力プレイである。
まあ、それでも「トヨタが抜きすぎだ」という意見はあるだろうし、そう思う人からすれば、消費者に対して値段を下げて、サプライヤーには買い入れ価格を上げればいいと考えるのだろう。確かにトヨタは儲(もう)かっているので、少し吐き出せと言いたくなる気持ちは分からないでもない。
もしそういう局面で指標とすべきものがあるとすれば、営業利益率だろう。これまで筆者が自動車メーカー各社の経営層に尋ねてきたところ、自動車メーカーの教科書通りの理想値は8%である。直近のトヨタの利益率は9.5%なので、少し多いといえば多い。1.5%分サプライヤーが搾取されているという見方に一定の論理性はあるが、あんまりそれをいうと、もし利益率が8%を切った時に逆に作用しかねない。
筆者個人の見方としては15%とか20%というわけではないので、騒ぐほどの話ではないと感じる。ただ直近のトヨタ系サプライヤー各社の利益率を見るとトヨタより利益率が高い会社が存在しないのも確か。ただし、各社とも売上の昨対伸び率はプラスに、2社を除いて営業利益の伸び率もプラスになっている。
これはトヨタだけの話ではなく、自動車産業全体の話だが、メーカーの利益に対する評価は、多分グローバル企業が世界で戦っていくことに対する認識の問題になると思う。電動化だ自動運転だコネクテッドだという、開発研究費がしこたまかかる案件を乗り越えていくための原資をどの程度に見積もるのか? 状況として割と金が掛かる局面にあるのは事実だ。もちろん各社とも余力はゼロではないだろうが判定はなかなか難しい。原資不足でその競争に負けたら、かなり深刻な事態になることは予見できる。
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