止まらない「ヤクルト」旋風、実は「海外売上」の方が好調?:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/3 ページ)
ヤクルト本社の株価は8550円まで上昇し、7月12日の高値をさらに更新した。足元では、同社の株価が日経平均株価を40%以上アウトパフォームする好調ぶりなのである。なぜ今、ヤクルトに注目が集まっているのだろうか。
国内よりも高成長率の海外市場
確かに、これらの事例が単なる「一過性のブーム」であれば、反動による成長率の低下が気がかりとなる。しかし、それでもヤクルトの業績と株価は最高値を連続で更新し続けている。
大きな要素のひとつが、海外における市場の着実な拡大にある。同社の業績をみると、当期の第1四半期(22年4月〜6月)の3カ月で、売上高が1079億円の大台を突破した。これは前年同期の964億円から12%ほど上振れている。
そのうち、国内の売上高は558億円で、前年同期比で10.2%成長している。当期の第1四半期はちょうどSNSで「ヤク1000」ブームが発生した時期であることから、国内における成長率の一定割合はブームによるものが含まれていそうだ。
それでは海外売上高はいかほどだろうか。米国向けが138億円と27.6%の成長、アジアが292億円と11.6%の成長だ。全体では457億円と、国内市場を超える15.5%の高成長を誇っている。
コロナ禍で、国内外の消費者が健康増進や免疫力の向上へ関心を向けている。冒頭でヤクルトは必需品というよりはオプションに近いと言及した。しかし、足下の売れ行き状況を鑑みると、ヤクルトを医薬品などのような“必需品”として捉えてる消費者も少なくない。
22年は“サプライズ円安”で業績を拡大する企業が増える?
海外市場での伸びもあって、足下のヤクルトにおける海外売上高の比率は約41%まで拡大した。足元でやや円高になったといえ、1ドル130円を超える円安相場を前期計画の時点で予想していた企業は少ない。
そのため、ヤクルトを始めとした海外売上高比率の高い企業の多くは、足下の円安を踏まえた業績予想の見直しを公開し始めている。
7月29日には、ヤクルトは23年3月期における連結純利益を従来の455億円から480億円に修正した。同日にJT(日本たばこ産業)も業績予想を上方修正。JTはその名前とは裏腹に海外売上高比率が66%と過半を占めている。
3日には農業機械のクボタも売り上げ・利益の両面を上方修正した。同社の海外売上高比率も73%と、大半を海外でまかなっている。これらの傾向を踏まえると、海外売上高比率の高い企業は、業績予想の折り込み度合いを超えたサプライズ的な円安によって業績予想の見直しを行う企業が増加していくものとみられる。
このような兆候は、決算資料にある「想定為替レート」を確認してみよう。足元の為替レートと「想定為替レート」の開きが大きいほど、業績の変動幅が大きくなる可能性がある。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCFO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CFOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
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