実は“看板倒れ”でない東証の市場再編:フィデリティ・グローバル・ビュー(3/5 ページ)
“看板倒れ”との声も多い東証の市場再編。しかし、フィデリティが実際にエンゲージメントを進めていると、そうした評価とは異なる印象を受けます。その理由について、ESG専門家のフィデリティ投信の井川智洋が説明します。
次のステップは上場企業の新陳代謝
そもそも市場構造改革は、日本企業の上場後の成長をどのように動機づけしていくかという課題意識が大きな焦点の1つとして始まりました。今回東証がプライム上場企業に求めた基準はあくまで市場の入口の基準に過ぎず、上場後の持続的な成長に向けた動機づけの議論はこれから行われるべきでしょう。実際に東証も「市場再編はあくまで始まりに過ぎない」と公の場で述べています。
こうした観点からは、次に議論すべきは、上場企業の新陳代謝を促す仕組みの構築であると言えます。というのも、日本企業の株価パフォーマンスを分析すると、歴史のある古い企業ほど最近上場した企業に比べて劣後する傾向が確認できるからです。
TOPIX構成銘柄について直近5年間の株価変化率を上場年代別に4つの群に分けて確認すると、成長企業が多く含まれる2017年以降に上場した企業群は、昨今の相場環境を受けて最もさえない結果となりました。しかし一方で、上場年代の最も古い企業群もそれに次ぐ不振な結果となっています。
PBR(=株価純資産倍率)ではより顕著な傾向が確認でき、上場年代の最も古い企業群のPBR(中央値)が0.76倍と最も低く、以降新しい年代の企業群ほどその数値は上昇しています。また、PBRが1倍を割れている、つまりROE(=株主資本利益率)が株主資本コスト(注:益利回りを株主資本コストと仮定)を下回り、株主価値の創造ができていない企業の割合も、最も上場年代の古い企業群が67%とすべての年代の中で最も多く、以降、新しくなるほどその割合は減少しています(図表2)。
同様の分析を米国企業で行うと、興味深いことに日本企業と異なる傾向が確認できます。S&Pコンポジット1500指数(注:S&P500、S&P中型株400、S&P小型株600の合成)の直近5年間の株価変化率(中央値)は、古い年代の企業群ほど優れた結果となっています。PBRについても同様に、日本企業とは逆に古い年代の企業群ほど高くなっています。
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