実は“看板倒れ”でない東証の市場再編:フィデリティ・グローバル・ビュー(4/5 ページ)
“看板倒れ”との声も多い東証の市場再編。しかし、フィデリティが実際にエンゲージメントを進めていると、そうした評価とは異なる印象を受けます。その理由について、ESG専門家のフィデリティ投信の井川智洋が説明します。
政策保有株への依存が株価浮揚の足かせに
上場時期が古い歴史ある企業ほど不振に陥っている背景には、伝統的な日本型経営の象徴である、政策保有株式への依存が考えられます。政策保有株式は、取引先の経営陣に対して賛成票を投じることと引き換えに取引の安定を確保することを企図し、企業経営から緊張感を奪うことにつながりかねません。実際に先ほどの4群において、上場年代の古い企業群ほど政策保有株式に依存している様子が確認でき、株価パフォーマンスにも影響していると考えられます(図表3)。
日米でこのような逆の傾向が確認できる背景には、上場企業で構成される株価指数の構成ルールの違いが考えられます。上場企業が株価指数に組み入れられると、当該株価指数に連動するパッシブマネーや当該株価指数を参照するアクティブマネーなど巨額の資金流入が発生するため、株価形成にとってプラスとなります。
日本の代表的な株価指数であるTOPIXの場合、これまで東証1部に上場すると自動的にTOPIXに組み入れられ、構成銘柄数に上限もありませんでした。企業価値創造ができず長らく不振に陥っていたとしても構成銘柄から外されることはほぼなく、安定した資金流入が期待できました。
一方、米国の代表的な株価指数であるS&P株価指数の場合、構成銘柄数に上限があり、定期的な入替制度もあるため、企業間で株価指数に組み入れられるための競争が発生します。こうした株価指数の構成ルールの違いが背景に存在する結果、日本では古くから上場している企業ほど株価パフォーマンスがさえず、一方米国では古くから上場している企業には長きにわたって競争を勝ち抜いてきた「選りすぐりの企業」が多く含まれ、優れたパフォーマンスを記録している、ということです。
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