「年季の入った経理システム、どうすれば?」 CFO歴任者が教える、ばかにできないExcel活用術:経営を動かすファイナンス(1/2 ページ)
【Q】当社のファイナンス部門はExcelを中心とした属人的なオペレーションで、経営陣に見せるレポートを出すために手作業や複数の工程を経なければならず、分析や経営陣に対する示唆を出すまでに力尽きてしまいます。しかし、新ツールは予算の関係で導入できません。どうすれば良いでしょうか?
連載:経営を動かすファイナンス
財務や経理のみに限らない、ファイナンス人材の新たなキャリア候補FP&Aについて、FP&Aスペシャリストの鷲巣大輔氏が寄稿。今回は、投資判断において一般的に用いられるDCF法の意義についてです。
▼FP&Aとは?
「CFOを目指したい人の登竜門? 『FP&A』とは、どんな仕事なのか」
Q: 当社の経理システムは年季が入っているもので、ファイナンス部門が経営陣の求めるレポートを出すためにはどうしてもExcelを中心とした属人的なオペレーションにならざるを得ません。そのため手作業や複数の工程を経なければならず、どうしても分析や経営陣に対する示唆を出すまでに力尽きてしまいます。
経理システムを入れ替える、分析用の新しいシステムを導入するといった解決案もあるとは思うのですが、間接部門に対する投資予算はどうしても限られており、導入に至るまでには時間がかかりそうです。何か良い方法はないでしょうか。
新ツールは導入できない……効果的な分析をExcelで実現するには?
A: FP&Aのミッションは、経営陣のビジネスパートナーとして、意思決定に影響を与える分析、見解を提供することにあります。経営陣の問いは状況に応じて多種多様で、定例的なものではありませんし、また分析の際に財務・非財務ともに大量のデータを処理することになるので、定例的な処理を可能とするシステムを導入して終わりにするのではなく、個々人でデータベース処理能力を高める方が良いでしょう。
お金をかけて新しいツールを導入するのも良いですが、現在使っているExcelの拡張機能であるPower QueryやPower Pivot機能(これらをまとめて「モダンExcel」という表現もされるようになりました)を使いこなすだけでも、パフォーマンスは劇的に向上すると思います。
ファイナンス部門のDX 具体的には何をすれば良い?
経理財務部門に限りませんが、最近は何かとDX(Digital Transformation)が叫ばれます。一方で、その実態がよく分からないというケースも多いのではないでしょうか。それもそのはず、目的や対象が不明瞭だからです。
組織全体をデジタル化するのか、個々人をデジタルスキルを向上させるのか? 定例オペレーションを簡素化するのか、それとも状況に応じて柔軟かつ精度の高いアドホック的な分析を実施するのか? これらによって適切な答えは変わるはずです。
FP&Aのミッションとは、意思決定権者のビジネスパートナーとして「問い」に対して的確かつ意義ある見解を述べることです。ファクトやデータに基づいて見解を導き出す上で、定例化されたレポートやダッシュボードを出力するシステムを導入するだけでは不十分でしょう。
財務・非財務問わず、大量の定量データを高速に処理し、意思決定に影響を与えるような重要な示唆を与えるためには、個々人のデジタルテックスキルそのものを磨き上げていくことも重要です。
近年「脱Excel」という論調もかなり盛り上がってきました。一方で、Excelは進化を遂げています。特にExcel2016以降に搭載されたPower QueryおよびPower Pivot機能は、下記の意味で従来のExcel機能から大幅に進化しました。
- 複数のファイルやデータテーブルを統合して、あたかも1つのデータベースのように処理できる
- 取り込んだデータのクレンジング作業をとても簡単に実行できる
- 100万行を超えるような大量のデータベースを、画面に表示せずに「裏で処理」することで、大量に高速処理できる
- VBAやマクロのように前提知識をそれほど必要とせず、Excel操作の延長線上でデータを加工・修正できる
- データ取り込み、クレンジング、加工のステップを一度作って仕組み化すれば、その後は更新ボタン1つで最新データをアップデートできる
筆者はこの2年半ほど、ハンズオンで予算実績の管理を行っていますが、こうしたモダンExcelを使いこなすことで、作業を効率的に簡素化し、経営に対して意義ある分析や見解を出すことに注力できるようになったと実感しています。
具体的な例でいえば、Excelベースで作成した部門ごとの予算およびフォーキャスト(予測)と、会計システムからダウンロードした実績の仕訳日記帳を統合させ、あたかも1つのデータベースのようにしてギャップ分析を行っています。
ここに人事データや競合のIR情報、NPS(ネット・プロモーター・スコア:顧客ロイヤリティーの測定指標)などのデータも統合させ、財務・非財務問わず、経営チームとしてモニタリングすべきポイントを整理してダッシュボード化し、基本的には更新ボタン1つで最新情報にアップデートできる状態を作っています。
このおかげで、データの作成自体にかける時間を極小化し、今ビジネスに何が起こっているのか、その要因は何か、問題解消の打ち手は何か、その想定されるインパクトはどのくらいか、といった意思決定に必要な分析に注力できるようになりました。
本稿ではモダンExcelの内容のご紹介にとどめますが、Excel機能の拡張のような位置付けの、非常に使い勝手がよく便利なツールです。ご興味がある方はぜひ書籍やトレーニング動画などを参考にしながら習得してみてはいかがでしょうか。
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