ローカル鉄道は高コストなのに、なぜ「運賃」はバスより安いのか:杉山淳一の週刊鉄道経済(2/6 ページ)
鉄道を走らせるのには、さまざまなコストが発生する。ローカル鉄道になると、運賃収入が見込めないので、経営は苦しくなる。にもかかわらず、なぜバスよりも「運賃」が安いのだろうか。そのカラクリを見ると……。
バスの運賃は本当に高いか
実は、鉄道と並行する路線については、鉄道運賃とバス運賃の差は小さい。北海道の旭川〜留萌間を比較すると、JR北海道は留萌線経由で1890円。沿岸バスは1680円。バスのほうが安い。岩手県の一ノ関〜気仙沼間を比較すると、JR東日本は大船渡線経由で1170円。岩手県交通バスは1070円。こちらもバスのほうが安い。
バスのほうが高い区間もある。山口県の下関〜長門市間は、JR西日本の山陰本線経由で1340円。サンデン交通バスは1930円で、バスのほうが高い。いずれにしても鉄道と平行するバスとの運賃差は小さい。
JRがバスに転換した場合は、ほぼ鉄道運賃と同額になる。JRにとっては、バスに転換したところで赤字だ。本当は鉄道廃止で済ませたいところだけど、「国鉄から引き継いだ鉄道路線を廃止するなら、沿線の自治体に丁寧に説明せよ」という約束がある。鉄道は維持しないけど、路線は維持する。交通事業者として社会的責任もあし、経費を節約できるだけマシというわけだ。
「鉄道よりバスのほうが高い」と思わせている理由は、鉄道と並行していないバス路線の印象だろう。例えば、濃飛バスの高山バスセンターから新穂高ロープウェイまで、片道運賃は2200円だ。Google マップによると距離は52.4キロメートル。この距離は本州のJR地方交通線運賃表によると、47〜55キロの区分にあたり、運賃は990円だ。鉄道だと990円。バスだと2200円。バスは2倍以上。この相場感だ、確かに高い。
鉄道がなくなれば、鉄道と並行するバスの運賃も値上げするかもしれない。そんな不安があるのかもしれない。ただし、バス会社がボッタクリ……ではない。地方のバス路線にしても、採算を取れるほどの収入はない。終点が観光地ならまだマシだけど、ほとんどは過疎地を結ぶローカル線だ。地域の交通を維持するために国や自治体からさまざまな補助金を得ている。その上で、地域の人々に利用しやすい運賃を維持している。それでここまで下げられた運賃である。
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