オリオンビール、発売1年未満で缶チューハイをリブランド リピート率が高かったのに、なぜ?:地域経済の底力(3/4 ページ)
オリオンビールのnatura WATTAは、沖縄県産の果実で、かつ防腐剤およびワックス不使用のものだけを原材料として活用。消費者のウケは悪くなかったものの、ビジネス上の課題もあってなかなか売り上げ拡大につながらなかった。そうした反省を踏まえて、発売から1年もたたない今年7月に商品のリブランドに踏み切ったのである。その背景を取材した。
ブランド認知は低かった
リピーターがつくなど、評判の良い商品ではあったが、課題もあった。ブランド認知度の低さである。先出の調査において、natura WATTAの沖縄県内での認知率は31.6%と、競合よりも20〜30ポイントほど低くなっている。なお、WATTAが発売から7カ月後に実施した調査では48.4%だったため、数字上はそれよりも認知されていないことになる。
原因は明確だった。商品名にWATTAの文字があるため、同じブランドだと思われていたのだ。WATTAに次ぐRTDの第2のブランドにしたかった同社のもくろみは外れて、「限定品」や「WATTAのハイグレード版」などという消費者理解がなされてしまっていた。結果的に、売り上げも伸び悩んだ。
状況を打破するべく、急ピッチで商品リニューアルの検討が始まったのである。
オイルを使って、味もテコ入れ
新たなプロジェクトが立ち上がったのは今年1月ごろ。ネーミングを「natura」に変えるだけではなく、大きく2つの側面から刷新を進めた。
1つは味だ。既存商品の味わいを好み、リピートしていた消費者は少なくなかったため、味を変えるのは大きなチャレンジだった。それでも変えようと考えた理由は何か。
「WATTAのブランドに対して、甘そうだというイメージが消費者に多かったのです。それとは違うものにしたかった」と浜比嘉氏は説明する。
具体的な取り組みとしては、これまでシークヮーサーサワーだけに採用していた県産のオイルを全てに追加した。オイルとは、果実の皮の部分に含まれる油を抽出したもので、風味や苦味がある。「果汁だけで作るよりも味わいに奥行きを出せます」と浜比嘉氏。
オイルを使う商品は他社にもあるが、なにぶんオイルはコストが掛かる。原材料100キロから1キロ程度抽出できればよい方だという。従って、他社はオイルの成分を含んだ香料を使うケースが多い。
また、果汁の風味を出すための苦労もあった。チューハイを缶に充てんした後にお湯をかけて殺菌するが、あまりにも熱すぎると風味が損なわれてしまう。
「特にシークヮーサーは分かりやすく、カラメルみたいな香りがついて、中身の色も茶色っぽくなってしまいます。トータルで2カ月くらいはテストを繰り返しました」(浜比嘉氏)
その他にも細かな調整を加えることで中身を一新した。最も味の方向性を変えたのはレモンサワーである。
「以前のような甘さも感じてもらいつつ、レモンらしい酸味を出しています。全体的に爽やかな後味にしたことで、より食事に合わせやすいものになりました」(浜比嘉氏)
かーぶちーサワーは、もともと味の評価が高く、この味が好きだから買うという消費者が多かった。そのため、大きな手は加えていないが、オイルを使って味の奥行きを出した。
甘さを抑えたドライな飲み口だったシークヮーサーサワーは、皮由来の渋みをネガティブに感じる消費者がいたこともあり、渋みを柔らかく、飲みやすくした。
naturaシリーズの開発においては、原料調達も悩みの種である。
「マイヤーレモンやシークヮーサーはまだ何とかなりますが、かーぶちーはそもそもの生産量が少なく、さらにそこからストレート果汁を作るとなると、量は限られてしまいます」と浜比嘉氏は語る。
かーぶちーサワーはレモンサワーの5分の1程度しか製造できないため、基本的には沖縄県内のスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどにしか流通しておらず、県外への出荷は行っていない。生産量の増強が今後の課題としては残る。
関連記事
- 午後7時閉店でも店長年収1000万円超え! 愛知県「地元密着スーパー」絶好調の秘密
愛知県東三河地方だけに5店舗しか展開していない「絶好調」のスーパーがある。「社員第一主義」を掲げ午後7時には閉店しているのに、店長の年収は1000万円を超える。その秘密に迫った。 - お金なし、知名度なし、人気生物なし 三重苦の弱小水族館に大行列ができるワケ
休日には入場待ちの行列ができ、入館者数の前年比増を毎月達成している水族館が、人口8万人ほどの愛知県蒲郡市にある。その秘密に迫った。 - 創業以来初の「うなぎパイ」生産休止にもめげず、春華堂がコロナでつかんだ“良縁”
「夜のお菓子」で知られる静岡のお土産品、春華堂の「うなぎパイ」が新型コロナウイルスの影響をまともに受け、一時は生産休止に追い込まれた。そこからの立て直しを図る中で、新たな付き合いも生まれたと山崎貴裕社長は語る。その取り組みを追った。 - 50億円を投じてでも、新施設で「うなぎパイ」の思いを春華堂が再現したかった理由
今年4月、春華堂が浜松市内にオープンした複合施設「SWEETS BANK」は、コロナ禍にもかかわらず連日のようににぎわいを見せている。ユニークな外観などに目が行きがちだが、この施設には同社の並々ならぬ思いが込められている。 - 100年近くレシピの変わらない「崎陽軒のシウマイ」が今も売れ続ける理由
経営者にとって必要な素質、それは「何を変え、何を変えないか」を見極める力である。崎陽軒の野並直文社長は身をもってこの重大さを学んだ。 - コロナ禍でも不文律破らず 「シウマイ弁当」崎陽軒が堅持するローカルブランド
人の移動を激減させた新型コロナウイルスは、鉄道や駅をビジネスの主戦場とする企業に計り知れないダメージを与えた。横浜名物「シウマイ弁当」を製造・販売する崎陽軒もその煽りをまともに受け、2020年度は大きく沈んだ。しかし、野並直文社長は躊躇(ちゅうちょ)することなく反転攻勢をかける。そこには「横浜のために」という強い信念がある。 - 借金100億円をゼロにした崎陽軒・野並直文社長 横浜名物「シウマイ」を救った“2つの変革”とは?
バブル崩壊直後の1991年に崎陽軒の経営トップとなった野並直文社長は、いきなり倒産の危機に直面する。下降を続ける売り上げや、大規模な設備投資などによって借金は100億円を超えた。そこからどのように立て直しを図ったのだろうか。 - 販売数は34万個超え! 静岡名物「わさび漬け」の老舗メーカーが、ヒット商品「わさビーズ」を開発できた理由
「わさび漬けの会社」から「総合的なわさび専門店」に生まれ変わろうとする田丸屋本店。その足がかりとなるのが、2018年秋に発売した「わさビーズ」だ。SNSなどで大きな反響を呼び、しばらくは品薄が続いた。新商品開発に込めた思いを同社に聞いた。 - “昭和モデル”を壊して静岡を変えたい わさび漬け大手・田丸屋本店の意思
日本人の食生活の変化、さらには新型コロナウイルスの感染拡大によって、静岡名物の「わさび漬け」は苦境に立たされている。しかし、今こそが変革の時だと、わさび漬けのトップメーカーである田丸屋本店は前を向く。展望を望月啓行社長に聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.