ある日突然、パワハラ“加害者”に――「育てる」概念は捨てる! 上に立つ者が心得るべき3つのこと:大愚和尚のビジネス説法(1/3 ページ)
和尚と20年ぶりに再会したKさん。昔話で盛り上がるも、浮かない顔をしている彼に理由を尋ねると「パワハラ加害者」になってしまったという悩みを打ち明けられて――。他の個性を認め、尊重することで共に成長を目指す従業員と企業、そして上司と部下。価値観が変わり続ける現代において、「人を育てる」とはどういうことなのか? リーダーが学ぶべき心得を和尚が説く。
大愚和尚(たいぐおしょう)のビジネス説法
「僧にあらず俗にあらず」を体現する異色の僧侶、大愚和尚(たいぐおしょう)が、ビジネスにまつわる疑問、悩みを“仏教の視点を持って”解決。今回のテーマは「上司、先生、親に共通する和尚からの教え」。職場で、学校で、家庭で手本となるリーダーを務めることの、いかに難しいことか……。和尚から現代のリーダーに求められる心得を学ぶ。
ハラスメントを気にしなくてはいけない現代社会
私が住職を務める福厳寺は、愛知県の小牧市にあります。先日、新潟からやってきたKさんという男性が、福厳寺を訪ねていらっしゃいました。
私はかれこれ20年以上、住職の傍ら空手を指導しているのですが、Kさんはかつて小牧に住んでおり、私の道場に通っていた生徒さんでした。20年ぶりの再会。昔話に花が咲いたのですが、私はKさんの相変わらずの明るさの中に、どことなく陰りがあることが気になりました。理由を尋ねると、「実は……」と言って、心中の悩みを打ち明けてくれました。
彼の悩みとは、職場での「パワハラ」でした。パワハラといっても、Kさんが「パワハラ」を受けていたわけではありません。Kさんが、部下から「パワハラ」だと非難されて、悩んでいたのです。
彼が新潟に引っ越してから20年。今の会社に就職してから16年が経ちます。Kさんはその一部上場企業の役員にまでなったのですが、一昨年「パワハラ」を気にして自ら役員を降りたといいます。確かに彼は体格にも恵まれており、目もギョロっとしていることから、一見強面に見えるかもしれません。しかし、その中身は、誠実で、穏やかで、義理堅い人です。私が指導していた際は、道場でも、誰に対しても高圧的な態度をとることはなく、むしろいつもニコニコして、先輩からも後輩からも慕われていました。
愛知から新潟へ引っ越した際も、「新潟で空手を続けたいから」と引っ越し先の近くにある道場への入門許可を私に請うてきました。そして新たに入門した道場には、今でも通っているといいます。20年以上、どんなに仕事が忙しくても道場に通い続けるなどということは、感情の浮き沈みが激しく、いい加減な人にできることではありません。
Kさんは本当にパワハラ加害者? 本人の回答は……
だから彼に聞きました。「どの辺がパワハラだと言われるの?」と。
すると彼は、「それが自分では分からないんですよね。私自身は何もパワハラしているつもりはないのですが、一方的に顔が怖いとか言われて……。特に事務の女の子に敬遠されてしまうんです」と、ため息交じりに肩を落とすのでした。現場を見たわけではないため、具体的にどこに問題があったのか、私がジャッジすることはできません。しかしKさんの場合、真面目で何事に対しても真摯(しんし)に取り組もうとするがゆえに、どこか甘えを持った人間の目には「怖い」存在として映ってしまうのかもしれないと感じました。
上司たるもの、自分では気づかない「ハラスメント」を気にしなければならない現代社会。今や、40種類以上ものハラスメントが数えられており、その中には、パワハラ、モラハラ、セクハラ――と聞き慣れたものもあれば、ワクハラ(コロナワクチンを接種していない人へのハラスメント)、リモハラ(リモートワークで働く社員に対するハラスメント)、エアハラ(暑いのに、寒いのに空調を調節させてくれないハラスメント)、ヌーハラ(麺類をすする音によるハラスメント)など、「そんなこともハラスメントになりうるの?」と驚いてしまうものまであります。
そもそも「ハラスメント」とは何でしょうか。
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