ある日突然、パワハラ“加害者”に――「育てる」概念は捨てる! 上に立つ者が心得るべき3つのこと:大愚和尚のビジネス説法(3/3 ページ)
和尚と20年ぶりに再会したKさん。昔話で盛り上がるも、浮かない顔をしている彼に理由を尋ねると「パワハラ加害者」になってしまったという悩みを打ち明けられて――。他の個性を認め、尊重することで共に成長を目指す従業員と企業、そして上司と部下。価値観が変わり続ける現代において、「人を育てる」とはどういうことなのか? リーダーが学ぶべき心得を和尚が説く。
【1】「目的」を共有し「目標と行動」を明確化すること
巧みな信念は、巧みな世界を作り出します。下手な信念は、下手な世界を作り出します。曖昧な信念は、曖昧な世界を作り出します。明確な信念は、明確な世界を作り出します。リーダーは常に、部下と目的を共有し、目標と行動を明確化する必要があります。
「誰のために、何のために、いつ、どこで、誰が、何を、どのようにするのか」。それが明確になればなるほど、上司と部下の間の溝が埋まります。
【2】「トライ&エラー」を忍耐強く見守ること
曹洞宗の開祖、道元禅師は「生児現成(しょうにげんじょう)」という人育てについての心得を残されました。親がいなければ子どもは生まれません。しかし子どもが生まれなければ、親もまた親にはなれません。子どもが産まれると同時に親が生まれ、子どもが一年生になると同時に、親もまた一年生になるのです。
子どもは好奇心を持ってあらゆることにチャレンジし、失敗し、失敗から学んで成長していきます。それをドキドキ、ハラハラしながらも、忍耐強く見守ることで親もまた成長します。それを教えたのが「生児現成」。上司と部下の関係も同じです。部下のトライ&エラーを奨励し、忍耐強く見守ることで、上司もまた育つのです。
【3】責任を引き受けること
自分の保身ばかり気にしている上司。誰かに責任を押し付けて、コソコソ逃げ回っている上司。そんな上司を部下が信頼するはずがありません。人は、弱々しい人より、力強い人に惹かれます。人は、おどおどした人より、堂々とした人を信頼します。諸行無常の世の中にあって、経営に絶対はありません。誰もが見えない、不安定な未来に向かっているからこそ、「全てOK」「何が起きても自分が引き受ける」という、堂々たる態度で自ら責任を引き受けようとする上司。そんな上司の姿勢に、人はついて行きたくなるものなのです。
「人は人を育てることはできない」ことを悟る
経営者、上司が避けて通れない役割に、「人育て」があります。結論から申し上げると、人を育てることはできません。人は、育てられるのではなく、自分で育つのです。ただしその育ちと方向性については、支えと導きと手入れが必要です。
植物は、陽の光に向かって伸びます。真っ直ぐに伸びる者もあれば、あちこち方向性が定まらず、支えが必要な者もあります。望ましくない方向に枝葉を伸ばせば、手入れも必要となります。
人育ても同じ。部下にとっての太陽は「憧れ」です。経営者、上司、先輩に憧れられる存在があれば、部下は、その憧れに向かって伸びようとします。真っ直ぐ伸びる者もあれば、フラフラと方向性を迷う者もあります。望ましくない方向に伸びる者には、手入れも必要です。いずれにせよ、「人は育てることができない」「人は憧れに向かって育つ」という道理を、いち早く悟ることです。
すると、経営者や上司にとってなすべき努力の方向性が見えてきます。すなわち部下を育てる努力ではなく、自らを育てる努力。自らが憧れられる存在になること。尊敬される存在になること。
管理職に求められるマネジメントには6つあると言われています。目標、人、学び、予算、時間、リスクの6つです。確かにこれら6つは、管理に必要な要素でしょう。それらが本当に管理できるのならば……。
しかし、心静かに考えてみてください。明日何が起きるか分からない時代に、目標や予算やリスクの管理が本当に可能でしょうか。価値観の多様化する時代に、人や学びの管理が本当に可能でしょうか。古今東西、24時間を管理できた人など、本当にいるのでしょうか。
お釈迦さまは、「他を管理」するのではなく「自らを整える」よう説かれました。どんな時代においても、マネジメントできるのは「自分」しかないからです。どんなリーダーであっても、マネジメントできるのは「自分」しかないからです。
- マネジメントすべきは、いつも「自分」
- 育てるべきは部下ではなく、いつも「自分」
そのことを悟った者だけが、真のリーダーとなれるのです。
著者:大愚元勝(たいぐ げんしょう)
佛心宗大叢山福厳寺住職。株式会社慈光マネジメント代表取締役。慈光グループ会長。僧名「大愚」は、大バカ者=何にもとらわれない自由な境地に達した者の意。駒澤大学、曹洞宗大本山総持寺を経て、愛知学院大学大学院にて文学修士を取得。 僧侶、事業家、作家・講演家、セラピスト、空手家と5つの顔を持ち、「僧にあらず俗にあらず」を体現する異色の僧侶。
HPにて「お悩み相談」を受け付けているほか、YouTubeチャンネル「大愚和尚の一問一答」で国内外から寄せられた相談にも対応する。著書『苦しみの手放し方』(ダイヤモンド社)、『最後にあなたを救う禅語』(扶桑社)、『人生が確実に変わる 大愚和尚の答え』(飛鳥新社)など。
関連記事
- 「自分を最底、底、底に置きなさい」他人の評価に惑わされず“病み回避”するための心得
インターネット成熟期の今、あらゆる情報の入手、あらゆる人とのつながりは全てオンライン上で完結する時代になった。しかし同時に、現代特有の“病み”がまん延するという現実も忘れてはならず、そこには少なからずインターネット中毒による影響があると分析する研究結果もある。大愚和尚に、SNSにまどわされず「他人の評価」とうまく付き合うコツを聞く。 - 僧侶という職業が“長生き”のワケ 働き方が激変しても、心身の健康を保つ「5つの習慣」
「健康で長生きしたい」とは、年を重ねるごとに誰もが抱く願望です。けれども残念ながら、誰もが健康で長生きできるわけではありません。仕事が「これから」というときに、大病を患ったり、「まだまだ」長く働けると思われていた人が突然亡くなったり……。かと思えば、100歳を超えてなお矍鑠(かくしゃく)としておられる方もある。なぜ、人は“順番に逝く”わけではないのでしょうか。 - 「お金を稼ぐために健康を犠牲にする」愚かさ 毎日イキイキと働くためにしたい“たった一つのこと”
誰もがみな、豊かに暮らしたいと願っています。だから懸命に働いて、豊かに暮らすためのお金を得ようとします。ところが皮肉なことに、身を粉にして働いて稼ぎ、ようやくゆったりとした暮らしを楽しもうと思った矢先に大病を患います――健康に、そして幸せに働き、生きるために必要なこととは? - ブッダに学ぶ生き方改革! 「45歳定年」がささやかれる現代社会で必要とされる人材になるには
2021年9月に開かれた経済同友会のオンラインセミナーにて、サントリーホールディングスの新浪剛史社長が提言した「45歳定年制」が大きな波紋を呼びました。多くの賛否両論がありましたが、私自身は、新浪社長の提言自体、社会に対する一つの重要な問題提起だったと感じています――大愚和尚に聞く、定年までの“生き方改革”とは? - “仏の境地”和尚に学ぶ! 上司・部下に イライラする気持ちと仲良くなる「アンガーコントロール」の極意
部下や上司と付き合う中で、怒りたくても怒れない、反論できずにイライラ……なんて経験は誰にでもあるはず。無理して笑って心の中で舌打ちをして――そんな毎日を送っていたら、心身ともに削られていくだけ。どうすれば、怒りと上手に付き合い、心穏やかに過ごすことができるのか? 和尚に「アンガーコントロール」の極意を聞く。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.