西九州新幹線に乗ろう! 新鳥栖〜武雄温泉間のフル規格新幹線はなくてもいいから:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
8月23日、西九州新幹線の特急券が発売された。開業日9月23日の上りと下りの一番列車は10秒、二番列車も1分半で完売したという。福岡県と長崎県は、西九州新幹線のフル規格を佐賀県内でも実現したいだろう。しかし佐賀県がいらないというフル規格新幹線を押しつける必要はない。
佐賀県内フル規格実現は遠い
九州新幹線の西九州ルートについては、国と長崎県がフル規格新幹線を望んでいる。しかし、佐賀県はフル規格を望まない。もともと「在来線をそのまま使うスーバー特急方式」で合意していた。打開案として「フリーゲージトレイン」に期待されたけれど「実用的でない」と結論が出た。
だからといって佐賀県の同意なしでフル規格新幹線をつくるわけにはいかない。佐賀県は建設費負担を強いられ、赤字になる並行在来線を引き受けざるを得ない。それでいて、福岡(博多)への所要時間短縮効果は小さく、新鳥栖まで行けば九州新幹線に乗れるし、山陽新幹線に直通できる。佐賀県は現状に満足で、西九州ルートの受益は限られている。そこで政府与党は佐賀県の負担をさらに低くするなどの方策を示した。
最近では佐賀県側の態度も少し軟化したようだ。フル規格はいらないという姿勢は保ちつつ、もしつくるのであれば「新たな発想で」佐賀空港経由、佐賀市北部経由を検討してほしいと考えている。佐賀市北部も観光地が多く、その先、県北部はイカで知られる呼子、陶磁器で知られる伊万里、唐津がある。けれども交通手段に恵まれていない。
長崎空港と長崎駅は離れていて不便だから、佐賀空港に新幹線駅ができれば、長崎観光アクセスは佐賀空港のほうが便利かもしれない。だから佐賀駅ルート以外で、佐賀県に明確に受益のあるルートを求めている。
これは一歩前進のようでいて、政府与党には受け入れがたい。新幹線は国のネットワークとして機能するものだから、よほどの事情がない限り、県庁所在地を通らなければ意味がない。佐賀空港経由はJR九州が了承しないだろう。JR西日本は京阪神と山陽、九州で航空便とシェアを争っている。空港連絡鉄道を新幹線でつくられてしまうと、航空便が優位に立ってしまう。これはJR九州も追随する考え方のはずだ。
私も佐賀駅ルートのフル規格がいいと思っている。まず国は佐賀県を抜きにフル規格を進めようとした件についてケジメを付けるべきだし、改めてゼロから佐賀県と協議して、並行在来線問題も含めて、佐賀駅ルートのフル規格がベストだと決着すべきだ。そして佐賀県も、フル規格で山陽新幹線に直通するという利点を前向きに評価してほしい。
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