「誰とも話さない日も」テレワークで滅入る若手 メンタルヘルス不調はどう防ぐ?:“よかれと思って”に要注意(3/3 ページ)
コロナ禍の中、テレワークによるコミュニケーション不足のため、メンタルヘルスに不調を抱える若手社員が増えているようです。不調に早く気付き、対処するにはどうすればよいのか、対策を解説します。
コミュニケーションによるメンタルヘルスケア対策
3つの事例は、どれもコミュニケーションの不足からのメンタルヘルス不調といえるでしょう。
東京商工会議所の今年2月の調査で、テレワーク実施の課題として挙げられたのが図表1です。
前回調査からの伸び率を見ても、テレワーク時の社内コミュニケーションに課題を抱えている企業が多いことが分かります。
テレワークによるコミュニケーション不足が危惧される中、
- 上司による1対1の定期的なオンラインミーティング
- 部署単位でのオンライン飲み会など、交流を増やす機会の実施
- メンター制度の導入
などの対策を講じて、コミュニケーションの機会を増やし、若手社員のメンタルヘルスケアに配慮しようとするケースが見受けられますが、なかなか思うような成果が出ていないようです。
なぜなら一口に「若手社員」といっても、人にはいろいろなタイプがいるので、相手に合わせた対応が求められるからです。
例えば、コミュニケーション不足だからと接触する機会を増やすことだけを重視しがちですが、コミュニケーションの質を考えず単に回数を増やすだけでは、かえって若手社員の負担になり、メンタルヘルス不調のリスクを軽減することは難しいでしょう。
まず相手がどのような人なのかを「知る」ことができていないと、先輩や上司が考える「よかれ」ばかりを若手社員に押しつけることになってしまいます。
そのため、現在のように出社が可能なときを上手に使い、若手社員の人となりを理解するため、対面による面談の機会を設けることが、メンタルヘルスケアのためには重要です。
あるいはコロナ対策に気を付けながら、チーム内のコミュニケーションを醸成するようなグループワークなどを部署単位で行い、先輩後輩の距離を近づけつつ、個々の社員がどのような考え方を持つのかをお互いが知る機会を設けるのも重要な方法です。
一般的にこれらのコミュニケーション対策については、上司や中堅社員によって考えられがちですが、若手社員たちの声を聞いて検討する、あるいは若手社員たち自身によって、自分たちが知りたいと思うこと、自分たちについて知って欲しいことを考えてもらうのがよいのではないでしょうか。
また、どんなに小さなことでも質問することを促すような雰囲気作りを社内で醸成していくことも、コミュニケーションを深め、若手社員のメンタルヘルスケアのために重要なことです。
それと同時に、できるようになった仕事などについて本人にフィードバックし、自信を持たせる機会をつくるなど、「見ている」「認めている」ということが伝わるようにすることも大切です。
コミュニケーションを深めることでメンタルヘルスケアに配慮するとともに、従業員一人一人にもセルフケアについて学んでもらう機会をつくりましょう。
例えば、産業医など講師を交えて、メンタルヘルスに関する教育研修会を開いてもよいでしょう。
社内外の講師を招くことが難しい場合には、厚生労働省が運営している「こころの耳」のサイト上のeラーニング教材を活用する方法もあります。
各都道府県に配置されている独立行政法人労働者健康安全機構「産業保健総合支援センター」が実施する、事業場へ訪問して行うセルフケア研修を実施するのも1つの方法です。
また、友達や家族など、会社以外で「誰かと話す」こともセルフケアにとって大切であることも、若手社員に伝えましょう。
メンタルヘルス不調に陥ると、職場に復帰できるまでに3カ月から半年かかるといわれています。復帰してからも以前のようなパフォーマンスを発揮するにはさらに時間が必要です。日頃から若手社員の様子を気にかけ、メンタルヘルス不調の兆候(図表2)を見逃さないようにしましょう。
メンタルヘルスケアのためには、たとえテレワーク時でも、若手社員とのコミュニケーションを深め、自身にもセルフケアの重要性を考えてもらうことを忘れないようにしましょう。
著者:森本 英樹(もりもと・ひでき)
森本産業医事務所/医師・医学博士
社会保険労務士資格を持つ開業産業医として労働衛生に関わるコンサルティングや企業の嘱託産業医、実務家視点でのセミナー講師、執筆等を行っている。
著者:本山 恭子(もとやま・きょうこ)
本山社会保険労務士事務所/特定社会保険労務士・公認心理師
労働法、社会・労働保険に関する相談から、メンタルヘルス対策、コミュニケーション、社内活発化などの相談、研修等を行っている。
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