ANYCOLOR、時価総額が日テレ・TBSを超えて3100億円へ……ナゼVTuberはここまで評価される?:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/4 ページ)
VTuber事務所「にじさんじ」を運営するANYCOLOR(エニーカラー)の株価が上場から約2倍となり、時価総額は3100億円に達した。いちVTuber事務所が、日本に存在するすべての在京キー局を、時価総額の点で上回ったことになる。
広告費はたった「2300万円」?
さらに、同社は広告費をほとんどかけていないのも堅調な業績の要因である。ANYCOLORの費用の推移を見ると、3桁増収・増益を達成しながらも、広告宣伝費は今四半期において、わずか2300万円しか広告費をかけていない。
普通の企業は通常、売上高の1割から2割を広告宣伝費に充てており、勝負どころとなれば売り上げの5割から7割まで広告費をかけることも珍しくない。しかしANYCOLORは、普通の会社を基準にすると四半期で最低でも5億円から10億円くらいの広告宣伝費をかけなければ達成できないレベルの経営成績を、わずか2300万円の広告費で達成しているのだ。
なぜこのような低い広告宣伝費が実現可能なのだろうか。それは、自社で抱えるVTuber自身が「無料の広告媒体」として自社の宣伝を行っている点が大きい。国内におけるにじさんじ所属VTuberのYoutubeチャンネル登録者数は延べ2000万人ほどいるとされている。つまり「にじさんじ」は、ただ自社のライバーが活動しているだけで毎月延べ2000万人の視聴者に自社ブランドの宣伝をしているということになる。
近年では企業の宣伝方式として、スポンサー企業の商品紹介や宣伝のために動画制作やライブ配信を行うという、「企業案件」が有効な宣伝施策となりつつある。
要は、自社が自社の広告で「自社の製品は良いものです」と宣伝する方式には説得力がないため購買効果が小さい。一方で、インフルエンサーのような第三者が「この製品は良い」と感想を述べる方が説得力があり、ファンによる購買効果も大きい。さらに、動画で製品に興味を持ったインフルエンサーのファンがSNSなどで二次的に感想を述べたりレビューを行うことで、インフルエンサー以外のフォロワー層にも口コミ効果が浸透しやすくなる点でインフルエンサーのファン以外にも購買効果が波及する点が強みとなる。
このような「企業案件」は、その内容やタレントの影響力にもよるが、おおよそチャンネル登録者数に1〜10円を乗じた価格感である場合が多い。つまり、延べチャンネル登録者数が2000万人いるとすると、それぞれのチャンネルが1回活動するだけで数千万円から数億円の広告効果があると考えられる。そして、そんなインフルエンサーを外注せずに、自社で養成すれば、本来外部に流れてしまうはずの広告宣伝費を内側の設備投資やライバー養成に再投資することができ、さらに他社にも差をつけることができるようになる。
そのため、ANYCOLORは広告費を全くかけなくても新規顧客が絶えない。それだけでなく、普通の会社が広告費に充てるはずの予算を設備投資などに充てることで、効率的に業績も伸ばセルという黄金サイクルのビジネスモデルを展開している。
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