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ANYCOLOR、時価総額が日テレ・TBSを超えて3100億円へ……ナゼVTuberはここまで評価される?古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/4 ページ)

 VTuber事務所「にじさんじ」を運営するANYCOLOR(エニーカラー)の株価が上場から約2倍となり、時価総額は3100億円に達した。いちVTuber事務所が、日本に存在するすべての在京キー局を、時価総額の点で上回ったことになる。

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コンテンツの輸出産業化に成功

 ANYCOLORがここまでの業績拡大を果たしたキーとなるポイントは「円安」だ。

 一般的に円安で恩恵を受ける業種といえば、「自動車」や「機械」といった製造業や、「観光」のようなインバウンド需要のある業界とみられる。一般にタレント事務所は、円安がメリットとならない。日本のタレント事務所は国内ファンに向けてサービスを展開するという内需型の産業であるためだ。

 しかし、ANYCOLORの収益構造はそんな常識を覆し、海外事業が収益の柱となりつつあることで注目されている。同社における海外VTuber事業である「にじさんじEN」の売上高は、今四半期で16億3000万円と、前年同期の2700万円と比べて60倍も成長しており、今や全社売上高に対して3割弱のシェアを占める。今後も海外売上高比率が向上していくとみられている。


出所:ANYCOLOR株式会社 2023年4月期第一四半期決算説明資料

 海外比率が高まっているANYCOLORは、タレント事務所としては珍しく円安が業績にプラス反映された。例えば、海外の視聴者が同じ100ドルをVTuberへ投げ銭した時に、1ドル100円の時には売り上げは1万円となる。しかし、1ドル140円の時に同額の投げ銭を受け取ると、円換算の売り上げは1万4000円となる。

 為替変動だけで数十%も増収・増益となるのが円安相場の強みだ。このメリットはこれまで自動車などの輸出を中心にした製造業が主役として語られてきた。しかしANYCOLORは、コンテンツ産業においても、輸出産業に近い構造を作り出した点で卓越している。

 さらに、ANYCOLORの確立したもう一つの新たなビジネスモデルとして、「リモートでのインバウンド需要掘り起こし」を挙げておきたい。

 というのも、いくら円安でインバウンド需要が高まっているとしても、岸田文雄政権下における水際対策では、外国人が訪日できない限り効果が薄い。旅行代理店大手のエイチ・アイ・エスをはじめとしたインバウンド関連銘柄がこの円安相場にもかかわらず大幅な損失を計上し、ほとんど株価が上がっていないことから考えても、水際対策や活動自粛に伴うインバウンド需要の取りこぼしが足元で発生していると考えられる。

 しかし、YouTubeのような国境のないバーチャル空間であれば、国内にいながら海外の視聴者に向けてタレントをデビューさせたりライブを行ったりできる。つまり、これまで外国人に訪日してもらわなければならなかったところ、VTuberについてはそれをしなくても円安によるインバウンド需要を掘り起こせる。

 実はこのような外貨収益を事業の柱に据える収益構造で大きく成長した例として、韓国でBTSを運営する事務所のHIVEを連想される読者も多いかもしれない。韓国ではここ50年ほどウォン安基調が続いている。K-POPやBTSのようなアイドルが米国進出、つまりドル建て収益を見越した戦略をとるのも、自国通貨安が続いていたという環境も大きいと考えられる。

 そう考えると、日本のタレント事務所も外貨獲得に向けて収益構造の転換が求められてくるのかもしれない。いま、日本は世界的なインフレ・利上げ基調の中で、ほぼ唯一マイナス金利政策を続け、急激な自国通貨安が進行している。にじさんじはそんな自国通貨安という風向きの変化をうまく捉え、海外売上高のシェア率を伸ばすことに成功した。

 これらの背景が3000億円というANYCOLORの評価に説得力を持たせる要因のひとつとなっているだろう。

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