「部下が身勝手だ」と怒る“昭和の上司”が知らない、“令和の部下”の育て方:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/4 ページ)
残業はやりたくない、異動もしたくない、出世なんてまっぴら──そんな新しい価値観を持つ“令和の部下”と、“昭和の上司”とのすれ違いが起きている会社は少なくないでしょう。なぜ、“令和の部下”は気ままに振る舞うのか? どうしたら、理解し合うことができるのか? 河合薫氏が解説します。
ある社長の解決策は
では、どうしたら仕事を境界内に入れることができるでしょうか?
ヒントになる例を紹介しましょう。
以前、ある番組で、三鷹光器の創業者であり会長の中村義一さん(当時・2018年2月20日他界)を取材したときのこと。中村さんには、実にいろいろな示唆に富んだ話を伺ったのですが、中でも感動したのが、新入社員の教育のやり方でした。
三鷹光器では、「製品の開発から設計、製造、そして納品に至るまでの全てを、1人の社員が担当」しています。そこには「製品の質を保ち、社員の責任感とやる気を持続させるには、これが一番なんだ」という中村さんの思いがあります。
精密な機械を作っている三鷹光器にとって、ミスは許されません。しかし、人間が関わる以上、ミスをゼロにするのは難しい。そこで、設計をした人が、製品を作り、それをお客さんに届けるところまで担当させる。すると、お客さんからクレームがあった時や、トラブルが生じた時に、生産工程のどの場所で、何が原因で起こったのかが検証できる。
お客さんに直接怒られるのは、どんなに厳しく上司から叱られるよりもこたえるから、イヤでも自分で何とかしようと責任感が芽生える。「自分のやっていることは意味がある」と、仕事を楽しんでするようになるというのです。
実は、この取り組みには「前段階」があります。「全ての工程を1人に任せる」前の1年間は、中村さんが連れて歩いて教育するのです。その理由を、中村さんは力強く話してくれました。
「最初から俺がついて歩くわけだから、社員はそりゃプレッシャーにもなるよ。でもね、1年間は俺があっちこっちと連れ歩いて、俺がいるから自分でやってみろと、徹底的に自分でやらせるんだよ。それから現場の課長たちのもとで働かせるんだけど、経験がないヤツがやるんだから、失敗したり、ミスしたりするわけさ。すると上司も怒れば、お客も怒る。その時に俺も一緒に行って頭を下げるわけ。
うちの課長たちは俺にも平気で怒るから容赦しないし、お客も俺が出ていくと言いたいことをトコトン突きつける。そこで俺も一生懸命謝るの。俺が一年間教えてきた弟子がミスしちゃったんだから、俺に責任があるわけでしょ。だから必死に謝るんだ。
するとさ、若いやつらもどうにかしなきゃって、真剣に考えるんだろうね。会長が、自分のために課長に頭を下げるんだから、若手も必死になる。そうしているうちに、自然と自分で考えて動けるようになって、うまくいけば仕事が面白くなる。新しいことにチャレンジするエネルギーがわいてきて、放っておいても任せられるように育つんだよ」
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