前例のない「赤字上場」をどう評価させた? マネーフォワード金坂CFOに聞く舞台裏:対談企画「CFOの意思」(2/2 ページ)
「CFOの意思」第5回の対談相手は、マネーフォワードで取締役執行役員CFOを務める金坂直哉氏。外資からスタートアップへという、当時は珍しかったキャリアを選んだ理由とは。数億円規模の赤字を抱えながらの上場を、どのように成し遂げたのか。
金坂氏: そもそも「その会社で働きたいかどうか」が一番大事だと思うので、役職は何でもいいのでは? というのが私の答えです。長く働いていると、いろいろなことがあります。(投資銀行から移るような人材であれば)資金調達が業務の一つになってくるかと思いますが、それだけじゃないですよね。
仕事というのは役割分担で回っていきますし、CFOの業務も分解していけば、いろいろな部署の人に助けてもらってできること。最終的には自分がその会社で長く働けるかどうかが大事かなと思います。
嶺井氏: なるほど。その会社で本当に働きたいかが大事で、「働きたい」と思うのであれば、まず入ってみて、その中で成果を出しながら役割分担の中でポジションを担当していきましょう、ということですね。
SaaS企業を、どんな指標で評価してもらうか?──「赤字上場」を実現するまで
嶺井氏: マネーフォワードにジョインされてから8年間の中でさまざまな壁があったかと思います。ぶつかった壁、また乗り越えた方法について聞かせてください。
金坂氏: マネーフォワードという会社は、過去に事例のないことにたくさんチャレンジするので、本当にいろんな壁にぶつかってきましたね。それでも、過去の意思決定に引っ張られず、その時にベストだと思える意思決定をすることで乗り越えてきました。そのうち1つが、上場時のエピソードです。
17年9月にマザーズへ上場したのですが、赤字で上場に挑むという、ソフトウェア企業として前例のないことを行いました。
とはいえ、米国ではそのような形で上場し、後に大きく伸びている企業が前例としてある。投資家保護の観点を踏まえつつ、どのように価値評価してもらうのか、承認してもらうのか、というところが壁になりました。
嶺井氏: 日本で前例がない中で、どのようにアプローチして、その壁を乗り越えたんですか。
金坂氏: まず証券会社のアナリストの方とIPO前の早い段階からディスカッションさせてもらい、その中で見えてきた点をブラッシュアップしながらコミュニケーションを取っていきました。例えば、どういった数値を投資家に出すのかを定期的に見直すことなどですね。
また、上場前には外に出していなかったKPIの数字を上場後に出していく中で、グローバルな投資家も含めてより多くの方に見ていただけるようになり、評価も変わったと感じています。これはマネーフォワードに限らず、ここ数年のSaaS企業全般に感じるところです。
嶺井氏: 当時はSaaS企業はどの数字を開示すべきかというコンセンサスがなかったので、金坂さんにとっても、そしてきっと投資家の方々にとっても、チャレンジでしたよね。
金坂氏: そうですね。上場のタイミングで初めてお会いする投資家の方がほとんどだったので、期待値の目線を合わせていくようなコミュニケーションを取っていきました。前例のないことなので、投資家側からは「ここまで伸びるのではないか」という期待があっても、中にいる人たちからしたら「そんなに急には伸びません!」と感じているかもしれない。投資家保護の観点からも、期待値の目線をそろえることは重視していました。
最終的には、主幹事証券や東証などにサポートしていただきつつ、フェアに評価いただけたのではないかと思ってます。
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後編では、21年秋にマーケットが崩れる直前の資金調達を、なぜ実現できたのかや、M&Aを成功させるため、気を付けていることを聞く。
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