ITスキルに無縁の52歳が「DX人材育成」されて分かった、ミドル・シニア世代をリスキリングするコツ:抵抗感をどうなくす?(3/3 ページ)
しばしば問題化する、ミドル・シニア層のリスキリング。人材不足の背景や定年再雇用も見据え、新たなスキルの習得を期待する企業側と、「今から新しいことを学べと言われても……」と困惑するミドル・シニア世代の間で、すれ違いが起きかねません。
対面・オンラインを織り交ぜる
リスキリングを実施する際、ほとんどの方が業務と並行しての学習でしょう。筆者は今回eラーニングを利用しましたが、スキマ時間に勉強ができるのはとても便利でした。
ただやはり、アナログ環境で育ったミドル・シニア世代にとっては、対面で質問ができる学習環境が一番なじみ深いものです。こうしたニーズに応えるためには、eラーニングとリアルでの対面形式を混ぜるブレンディッドラーニングを検討するのも一つの手ではないでしょうか。
予習や復習ではeラーニングを用いて、対面の学習で疑問を解決することができれば、学習効率は向上することでしょう。可能であれば、実際に手を動かす実習なども組み合わせるとより効果的かと思います。簡単なコードを書いてみたり、統計学を実際の業務で使ってみたりする実習です。
テストや実践機会の場(エンジニアとの会話など)を設ける
学ぶうちに学習意欲は下がってくるもの。定期的に自分の成長を感じられる場を設けることもリスキリングの成功には必要です。
例えば、定期的な習熟度を測るためのテスト。学習の成果や成長を数字で確認するのは、当たり前のことかもしれませんが、研修のみでテストを行っていない企業もあるのではないでしょうか。また、テストを実施することで、記憶の定着が良くなることはさまざまな研究でも明らかにされています(※1)。
(※1)Test-Enhanced Learning: Taking Memory Tests Improves Long-Term Retention/SAGE Journals
テスト以外にも業務で実際に使う場があると良いでしょう。デジタルスキルの基礎を学ぶだけでも、今までは、エンジニア任せにしていた話を「ここの工程はこういう仕組みで、これぐらい時間がかかるんだな」と理解できました。知識の向上が感じられると、学習が楽しくなります。
世代を超えて学習者同士が学び合える環境を作る
筆者の場合、若手社員と共にリスキリングの研修を受けました。私とは親子ほども差がある社員たちですが、彼らと一緒になって頑張れることが、私のモチベーションとなりました。
デジタルのリスキリングとなると、若い方たちにアドバンテージがあり、多くの場合は彼らの方が習得は早いものです。だからこそ、シニア世代が、若い人に教えをこうことが、自然とできます。学習者同士が気軽に学びあえる環境(ピアラーニング)を構築し切磋琢磨できる関係作りが大事です。そのように若い社員とミドル・シニア世代の間に新しいコミュニケーションが生まれることも、デジタルリスキリングの副次的な効果と言えるでしょう。
人事担当者はその点も踏まえて、特に世代をまたいだグループをつくってリスキリングを実施するといいと思います。そして、グループ内で勉強会などを設けると、より交流が活発化し効果的でしょう。
実は「学び直し」を繰り返してきた世代
今回プログラミングを学んだことで筆者は、今までは表面的にしか分からなかったエンジニアの言葉を、もう一歩踏み込んで理解できるようになりました。新たに触れたテクノロジーと、これまでの新規事業開発の経験をかけ合わせ、新しいビジネスアイデアを創出していきたいと考えています。
筆者含むミドル・シニア世代は、今まで何度も新しいことを吸収してきました。WordもExcelもPower Pointも入社後に覚えましたし、携帯電話やスマートフォンにも対応してきました。新しいテクノロジーやツールを学ぶことを繰り返してきた世代なのですから、ぜひ恐れることなく取り組んでほしいと筆者は思います。
著者:平石 鳳志 株式会社manebi取締役執行役員 警備事業担当
1970年生まれ。大学卒業後、丸紅株式会社に入社。海外駐在を含め、国内外の営業畑を中心に約20年を過ごす。2012年よりふとん専用ダニクリーナー「レイコップ」を販売するBukang Sems Co Ltd の日本支社長に就任し、日本市場立上げを先導。その後、複数の国内外企業の事業立上げに大きく携わる。2013年社員教育ツールを提供する株式会社menebiを代表と共に創業。現在は同社役員として新規事業開発等を行い、チャレンジし続ける50代として日々新たなことに挑戦し続けている。Facebook
関連記事
- IT弱者の部長に「こんなのも分からないんですか?」 部下の発言でもパワハラにあたる?
50代の部長が部下たちにITツールの使い方を教わっていた際、3年目の若手が「部長、こんなものの使い方も分からないで、これまでどうやって仕事してきたんですか?」と発言しました。部長は若手の処分を訴えていますが、どうすべきでしょうか? - 「部下を育てられない管理職」と「プロの管理職」 両者を分ける“4つのスキル”とは?
日本企業はなぜ、「部下を育てられない管理職」を生み出してしまうのか。「部下を育てられない管理職」と「プロの管理職」を分ける“4つのスキル”とは? 転職市場で求められる優秀な管理職の特徴について解説する。 - 「優秀だが、差別的な人」が面接に来たら? アマゾン・ジャパン人事が本人に伝える“一言”
多様性を重視するアマゾン・ジャパンの面接に「極めてだが優秀だが、差別的な人」が来た場合、どのような対応を取るのか。人事部の責任者である上田セシリアさんに聞いた。 - 幹部候補か、“万年ヒラ”か キャリアの分かれ目「30代以降の配置」を、人事はどう決めている?
「育成」の観点から異動配置させる20代が過ぎると、多くの企業は「幹部候補の優秀人材」と「それ以外」の社員を選別します。人事は、そうした異動配置をどのように決めているのでしょうか。年代層別の異動配置のロジックをみていきます。 - 「優秀でも残念でもない、普通社員」の異動に、人事が関心を持たない──何が起きるのか
社員の異動を考える際、人事部が真っ先に関心を持つのは「優秀社員」と「残念社員」。その間にいる大多数の「普通社員」は後回しにされがちという実態がある。しかし、この層への取り組みを疎かにすると、ある懸念が生まれる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.