ポルシェの上場が“今さら”ではなくベストタイミングだったといえるシンプルな理由:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/4 ページ)
ドイツの老舗企業・ポルシェが9月29日、同国フランクフルト証券取引所に上場した。通常、株式上場といえば新興企業の登竜門と目されるイベントだが、なぜこのタイミングで上場したのか。
最近ではVtuber事務所の「にじさんじ」を運営するANYCOLORが、公募価格1530円に対してわずか3カ月で1万2500円まで株価が高騰したという事例がIPOドリームとしてもてはやされているが、株式の発行体であるANYCOLORとしては素直に喜べないはずだ。
なぜなら、ANYCOLORは上場に際して発行株式総数の4.5%程度を1530円という超安値で売らざるを得なかったからだ。たった3カ月で10倍近くも株価が上がるということは、それだけANYCOLORの持つ可能性や収益性が過小評価されていたことになる。
仮に今の水準で適切に評価されていたら、ANYCOLORは同じ割合の放出で167億円もの巨額を新株発行によって調達し得ただろう。しかし、ANYCOLORが実際にIPOで調達した資金は20億円程度にしかならなかった。残りの147億円は発行体であるANYCOLORではなく、IPOまでに株式を保有していた株主のポケットに入ってしまったのである。147億円は、22年4月期ベースの同社における販管費8.19年分に相当する。そのレベルの規模のお金が本来調達できていたと思うと、IPOで値上がりしすぎるのも考えものだといえそうだ。
上場に当たって売出・公募を行う際の価格は、ANYCOLORのような発行体が独断で決められない。過去の類似企業の例や、マーケットの状況から幹事証券会社の意見などを踏まえて「妥当そうな」株価を当て込むという一種の“神通力”によって設定される。証券会社にとっては顧客がIPOで大損すると信用を失うため、安パイとしてやはり低めの時価総額をつけておくことにインセンティブが生まれてしまう。
非上場株式の価値算定にはさまざまなフレームワークがあるものの、ベンチャー企業のように事業が革新的で先端的な領域であればあるほどその値付けは難しい。にもかかわらず、ほとんどの確率で投資家がもうかっているということは、ほとんどの確率で上場企業は安い値段で株式を放出せざるを得ない状態であり、発行体の立場が弱くなりがちということになるだろう。
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