ポルシェの上場が“今さら”ではなくベストタイミングだったといえるシンプルな理由:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/4 ページ)
ドイツの老舗企業・ポルシェが9月29日、同国フランクフルト証券取引所に上場した。通常、株式上場といえば新興企業の登竜門と目されるイベントだが、なぜこのタイミングで上場したのか。
あなたは「株を買うことは会社を応援することだ」という説明を一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。しかし、投資家が投資したお金は、ほとんどの場合、その会社に支払われない。株を買うときに払ったお金は、多くの場合、その株式に見切りをつけた”元株主”のポケットに入っている。
誤解を恐れずにいえば、上場した株式を証券会社で買うことは、転売されたチケットをフリマアプリで買うことと同じようなものだ。ファンが転売ヤーから定価より高いチケット代を払っても、アーティストには転売ヤーが最初に払ったチケット定価以上のお金が行き渡ることはない。
つまり、値上がり益は転売ヤーのものになる。株式の取引も、一度上場して誰かの手に株式が渡ってしまえば、投資したお金は応援する会社の人材や設備投資に充てられるのではなく、もしかすると見知らぬ誰かの「夜の飲み代」や、「住宅ローンの頭金工面」を応援していることになっているのかもしれない。
もちろん、自身が投じたお金を会社に直接行き渡らせる方法もある。それはIPOやPOといった新株の公募・売出である。これらの新株は売り手がトレーダーではなく発行体の会社そのものであり、この場合は「株を買うことは会社を応援すること」という説明が正しくなる。
「IPOはかなりの確率でもうかるし、株価がすぐに何倍にも値上がりする例もある」というブログ記事も散見されることから、何となく投資家と企業がもうかるウィンウィンで、ステキなイベントという印象の方も多いのではないだろうか。しかし、実際は異なる。
株式の発行体である企業と投資家は利益相反の関係にあり、どちらかが大きく短期でもうかった場合、その利益の源泉は相手方の損失ないしは逸失利益となるからだ。従って、経営者であれば、かなりの確率で投資家がもうかるIPOというイベントはあまり歓迎すべきでないし、もし自社の株式がIPOからすぐに10倍になったら、うれしさよりも残念さの方が大きくなってくるはずだ。
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