新型クラウンはなぜ大胆に変わったのか:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)
新型クラウンの期待が高まっている。国産車のネームバリューとしてはトップグループだろうが、セダンは“オワコン”の扱われている。そうした中で、クラウンはなぜ変わったのか。
新時代のセダンはどうあるべきか
先にも書いた通り、セダンはもう世界的に売れない。とはいえ、元の母数に比べればという話で、全くの壊滅というわけではない。なんだかんだ言って中国ではまだそれなりに売れるし、米国は分母がデカいだけに、減ったとは言えまだそれなりに売れる。
さすがに国内マーケットだけで勝負するのは、市場規模的に苦しいと見たトヨタは、従来ドメスティックモデルであったクラウンをグローバル商品に位置付け直し、4つの車形を用意してもう一度セダンのあり方を世に問う戦略に出た。
何より、セダンというのは元々が自動車の基本形。セダンでなければ嫌だという顧客も世界各国に存在するため、売れないならばと、そう簡単に全面撤退はできない。特にトヨタのようなフルラインアップメーカーはそうだろう。
もっと言えば、クラウンという、長く続いた伝統の大看板に終止符を打つ役目は誰だって担いたくはないし、長らくたすきをつないできた先達を思えば、おいそれとその役割から逃げ出せない。大樹を切り倒すならば万策尽き果ててからでよい。
かと言って、落ちるに任せたまま、ただダラダラと過去を踏襲してもどうにもならない。セダンの没落という流れは流れとしても、やる以上は徹底的な革新をもって抗うべきだ。だとすればセダンのあり方を今日的なものにアップデートしていくしかない。
実は新時代のセダンはどうあるべきかという取り組みは随分昔から数々の例がある。例えば1984年にデビューしたルノー・エスパスは、いわゆるワンボックス型のボディを持つが、鋼板プレス骨格に樹脂製のパネルを張り込む工夫で、ボディの軽量化を狙ったモデル。あるいは1990年にトヨタがリリースしたエスティマも斬新なコンセプトでデビューしている。横倒しにしたエンジンをミッドシップに搭載して、低重心なサルーンを目指した。
どちらも、ワンボックスボディの採用によって、セダンに対して、より広い空間を与えようとしたものだ。もちろん当時から商用ミニバンをベースにしたワンボックスの乗用モデルは多少なりとも存在していたわけだが、成り立ち上、商用車のハードな使用条件を前提に基礎設計が行われたそれらのモデルは、過積載に耐えうるようにボディが全体的に重い。
またその性格上、経済性を重視したパワートレインが搭載されるため、動力性能、運動性能、乗り心地、NVHなど、乗用車に求められるあらゆる面でセダンより明らかに劣っており、そこが解決しない限りニュージェネレションのセダンとはなり得なかったのである。だからこそエスパスは樹脂製パネルを採用し、エスティマは低重心、低ヨー慣性モーメント(クルマの重心点を通る、鉛直軸まわりのクルマ全体の慣性モーメント)を志向し、それらの性能向上を図ったのである。
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