「無借金経営こそ安心」の危険な誤解 “借り入れ恐怖症”の企業が陥るワナ:支払金利は“保険料”と心得よ(5/7 ページ)
「無借金経営」という言葉に魅力を感じている経営者や財務担当者は少なくないようです。しかし、財務基盤が盤石な大企業ならともかく、手持ち資金が潤沢ではない中小企業が無借金経営を目指すことには問題があります。社長と経理が知っておきたい「無借金経営のワナ」について、専門家が解説します。
「赤字でないから借入れできる」わけではない
赤字企業には銀行は融資しないと先ほどお話ししました。しかし、「赤字でないからいつでも借入れができる」というものでもありません。大切なのは、日頃の銀行との付き合いです。その一例が、先日、ネットで記事になっていました。
とあるレストランオーナーが、「このコロナ禍の休業要請時に、銀行からお金を借りようと思ったら、けんもほろろで借りられなかった」というのです。記事を見る限り、誰もが憧れるような東京都内の高級レストランです。また、これまでの経営は良好で、借金なんて考えたこともなかったということでした。
それが、安心のためにと、いざ銀行の門をたたいてみたところ、けんもほろろだったということなのです。これはなぜでしょうか? 赤字だったからでしょうか? 将来性が危うかったからでしょうか? あるいは、銀行が望むような事業計画書ができなかったからでしょうか? 違います。
銀行というのは、「融資をして初めてお客さま」として認識するのです。預金口座だけ持っていても、お客さまとして認識されていません。経営者の「勘違いあるある」の一つに、「毎月の、あるいは、毎日の売り上げを入金しているから、銀行は自社のことを信用してくれているはず」というのがあるのですが、それは間違いです。
これに対して、「いやいや、うちは借りてもいないのに銀行員さんがよく来て、融資をさせてくださいって頼まれますよ!」という反論もあるかもしれません。先ほどお伝えしたレストランオーナーもそうだったに違いありません。
しかし、銀行員さんの発言の裏には、「もし当行がノーリスクで融資できるのであれば融資させてください」というキーワードが隠れています。銀行から融資を受けたことのない経営者は、このことをご存じないので、いざ借りようと思ったら、思い通りにならないという事態に陥ってしまうのです。
そして、さらに大切なのは、「融資を受けられるのは銀行が貸したいときに貸せる額だけ」という事実です。考えてみれば当たり前のことですが、私たちのような、一見お金の専門家に見える人たちの中にも、ここを無視したアドバイスをされる方がいるので要注意です。
「利益を出さなければ、銀行から融資を受けられませんよ」
「財務体質が健全でないと、銀行から融資を受けられませんよ」
いずれのアドバイスも間違いではありません。しかし、逆に、「利益を出していれば」あるいは「財務体質が健全であれば」、企業側が借りたいときに借りたい額を受けられるわけではありません。
「銀行は晴れた日に傘を差し出して、雨の日には傘を取り上げる」と、銀行をやゆする言葉がありますが、これは事実です。
ですから、銀行から「ぜひ融資をさせてください」と言われたら、必要ないと思っても借りておいた方がよいですし、「決算書をください」と言われたら、融資を受けていなくても決算書を渡しておいた方がよいのです。
逆に、長い間、銀行口座を持っているのに、銀行員が一度も訪ねてきたことがない、あるいは、相当期間が空いているという状況であれば、今すぐにでも、いざというときに備えて、融資を受けるルートを真剣に探す必要があります。
© 月刊経理ウーマン
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