東京の通勤電車は「鉄道150年」で、どう変わったのか:「守り」と「攻め」(3/4 ページ)
鉄道開業から150年。常在戦場(じょうざいせんじょう)ともいえる状況の首都圏の鉄道は、どのような「守り」と「攻め」の戦略を取ってきたのか。
「五方面作戦」と「ニュータウン」
そこで考え出されたのが、「通勤五方面作戦」である。「作戦」という言葉が使われている点に注目してほしい。
東海道新幹線開業と同時期に、国鉄の赤字体質は始まっていたものの、都市部の通勤列車の置かれた状況は改善するしかなかった。資金は、国鉄の借款(しゃっかん)でまかなった。
中央線は、中野まで複々線だったのを、三鷹までに延伸。実現こそならなかったものの、立川までの延伸計画があった。東海道線は、横須賀線と線路を分離した。幸いなことに京浜東北線はもともと別に路線ができていた。東北本線・高崎線は、東北本線・高崎線の列車と京浜東北線の電車が線路を共有するのをやめた。貨物線を利用し長距離列車を走らせることにし、さらに貨物線を増設した。
常磐線は取手まで複々線化、緩行線は地下鉄に乗り入れた。総武線は、総武快速線と総武緩行線に分離し、複々線化して快速線は東京駅に乗り入れる。その後も、京浜東北線の先に根岸線をつくったり、東北・上越新幹線とセットで埼京線をつくったりと、通勤電車の充実を図った。
国鉄が経営難になった理由として、ローカル線の赤字を挙げる人も多い。しかし、都市部の通勤ラッシュに自力で対応するために負債を抱えたこともある。「守り」のために戦うしかなかった状況なのだ。
同じころ、私鉄沿線には多くの「ニュータウン」ができていた。住宅公団によるものもあれば、鉄道会社が開発したものもある。地域によってはその両者が入り組んでいる。
拡大する東京都市圏の住宅をまかなうために、官民挙げて不動産を供給した。私鉄はその流れに乗り、ニュータウンのために鉄道もつくり、乗客を増やした。最大の成功例といってもいいのが、東急グループによる「多摩田園都市」である。国鉄が「守り」で戦っている間、私鉄は「攻め」ができていたのである。
ちなみに、当時、鉄道車両自体も私鉄のほうが性能はよかった傾向にある。私鉄のほうが、一枚上手だったのだ。
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