度を超えたクレームを「丸く収めたい」上司、部下に謝罪を強要──カスハラが生んだパワハラに有罪判決:弁護士・佐藤みのり「レッドカードなハラスメント」(2/3 ページ)
顧客や取引先から不当な要求やクレームをつけられる「カスタマーハラスメント」(カスハラ)。企業が対応を誤ると、裁判に発展することがあります。中には、誤ったカスハラ対応がパワハラを引き起こすケースも。
裁判所は、B校長がA教諭に対し謝罪するよう求めた行為について、
- A教諭には非難すべき点がないにもかかわらず、A教諭を一方的に非難し、
- 児童の父と祖父からの謝罪要求が理不尽なものであったのに、その場で謝罪するよう求め、
- Aさんの意に沿わず、何ら理由のない謝罪を強いた
として、「専らその場を穏便に収めるための安易な行動」と評価し、不法行為(違法なパワハラ)と認定しました(甲府地裁2018年11月13日判決)。
「カスハラ」がきっかけで、新たな「パワハラ」問題に発展
本件は、学校の先生と児童の保護者との間でのトラブルですが、企業の従業員に対するカスハラに置き換えて考えることが可能であり、カスハラ対策を検討する上でとても参考になる事例です。
本件のように、怒っている顧客や取引先を目の前にして、その場を丸く収めるために、上司が部下に対し、不合理な謝罪などを命じる場合、「カスハラ」がきっかけで、新たな「パワハラ」問題に発展してしまいます。上司の指示や指導が、違法なパワハラに当たる場合、企業はパワハラ上司の使用者として、法的責任を追及されることがあります。
また、企業がカスハラを受けた従業員からの相談を受け付けずに放置したり、現場の従業員任せにして、問題のある顧客の対応を一人だけに押し付けたりすると、従業員は過度のストレスにさらされ、心身の健康を害する危険があります。そうなれば、会社は、従業員が心身の健康を損なわないよう注意する義務(安全配慮義務)に違反したとして、訴えられる可能性があります。
厚生労働省の「パワハラ防止指針」は、カスハラ対策を「望ましい取り組み」として定めるにとどまっています。仮に企業がカスハラ対策を講じなかったとしても、行政から勧告を受けたり、企業名を公表されたりすることはありません。
しかし、カスハラ対策を怠ることは、新たなパワハラを招いたり、企業が法的責任を問われたりする原因になることがあります。
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