社内の“違法なヒミツ”を知ってしまったら──内部通報者を守る「公益通報者保護法」、改正でどう変わった?:2022年6月施行(4/6 ページ)
自分の会社で違法なことが行なわれている。もしあなたがそうした事実を知ったとき、どうするでしょうか。違法行為は通報すべきですが、それが原因で自分が解雇されるかも……と考えると通報を躊躇(ちゅうちょ)するかもしれません。そんなときに内部通報者を守るのが「公益通報者保護法」です。
中小企業であっても責任問題が生じることがある
誤解があるといけないので強調しておきますが、労働者数が300人以下の企業であっても、公益通報者保護法におけるほぼ全ての規定は適用されます。つまり、公益通報を行った労働者などに対して解雇や損害賠償などの不利益扱いをすることは許されません。例外として、常時使用する労働者数が300人以下の企業では、通報体制整備義務が努力義務になると理解してください。
それでは、通報体制整備義務が努力義務となる、「常時使用する労働者の数が300人以下の事業者」とは、どのように判断するのでしょうか。
まず、「常時使用する労働者」には、正社員のみならず、パートタイマーなどの臨時的な労働者も含まれます。もっとも、繁忙期のみ一時的に雇い入れる者は含みません。
例えば、301人中100人は毎年入れ替わるものの常時301人以上在籍している企業は、常時使用する労働者が300人を超えることになります。なお、「労働者」に役員は含まれません。
ただし、「うちは300人も従業員がいないから安心だ」と早合点してはいけません。通報体制整備義務の法的義務が課されていないとしても、努力義務が課されていることには変わりなく、その結果、以下のような責任問題が生じることもあるからです。
(1)行政措置
通報体制整備義務に違反した場合、努力義務しか課されていない中小企業であっても、監督官庁による助言指導、勧告を受けるおそれがあります。もっとも、勧告に従わない場合に「公表」の対象とされるのは、法的義務が課されている企業に限られます。このように努力義務が課されている企業であっても、何も対策をしなくてもよいことにはならないのです。
(2)役員の会社に対する責任
会社法などにより取締役には、会社に法令などを守らせる義務が課されています。そのため、会社が適切な通報体制を備えていないことにより、適切な不祥事対応などが行われなかった場合には、取締役は会社に対して損害賠償責任を負う可能性があります。
これは、通報体制整備義務が法的義務として課されている、労働者数300人超の会社に限りません。たとえ努力義務しか負わない会社であったとしても、会社が通常想定される不正行為を防止する程度の通報体制を整えていなかった場合には、取締役が会社に対して損害賠償責任を負う可能性があります。
(3)会社及び役員の通報者に対する責任
内部通報を放置した場合や適切な対応をしなかった場合、会社や担当役員などが通報者に対して損害賠償責任を負う可能性があります。
内部通報の内容が通報者自身の権利保護に関わる場合(例えば労働関係法令の是正など)、その通報が適切に対応されなかったことにより、通報者が損害を被ることがあるからです。このことも、労働者数300人以下の企業であっても問題となり得ます。
このように、労働者数が300人以下の企業であっても、通報体制整備義務を放置してよいということにはならないのです。むしろ、内部通報に対して真摯に対応し、企業内の問題を解決することは企業にとってプラスでしかありません。例えば、ハラスメント問題が適切な内部通報により改善されることになれば、従業員の就業意欲増加及び離職率低下につながることになります。
そのため、中小企業であっても通報体制整備義務を果たすに越したことはないのです。
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