「残業=頑張っている」から「残業=無能」へ──変わりゆく働き方が示す、残酷な現実(3/3 ページ)
コロナ禍による働き方の変化や法改正の影響により、残業の在り方が変化している。かつては頑張っている証だった残業だが、現在はそのように捉えられることが減っているようだ。残業にまつわるデータと各社人事部からのヒアリングを集めると、変わりゆく働き方が示す「残酷な現実」が見えてくる。
「寝ていたのか?」 在宅勤務で効率が下がる社員が37.9%
ただし、自由度の高い働き方といわれる在宅勤務にしても効率よく仕事をこなしているわけではない。日本生産性本部の「第10回働く人の意識に関する調査」(22年7月25日)によると、「自宅での勤務で効率が上がったか」の質問では、「効率が上がった」が18.2%、「やや上がった」が43.9%。計62.1%。一方「やや下がった」「効率が下がった」の合計は37.9%もいる。前回4月の調査でも39.7%と、効率が下がった人が約4割に上る。
もちろん下がった理由は人それぞれだろうが、効率が下がると仕事の成果にも影響する。
前出の広告関連会社の人事部長は「在宅勤務になって仕事もライフも絶好調だという社員もいれば、仕事がなかなかはかどらないという在宅勤務に不向きな社員もいる。おそらく仕事の進め方のタイムマネジメントを含めて自己管理ができているか、自律的な働き方ができているのかの違いもある。たまに電話すると、寝ていたのかボーッとした声で話す社員もいる。そういう社員に限って資料の提出期限を守らないことが多い」と語る。
より一層求められる「タイムマネジメント」スキル
限られた労働時間やリモートワーク下でタイムマネジメントの重要性は以前よりも増している。ラーニングエージェンシーの「組織・チームの在り方の変化に関する意識調査」(22年4月27日)によると「10年前に比べて特に重視されるようになった一般社員のスキル・知識」のベスト3のトップは「タイムマネジメント」(56.2%)。次いで「IT・デジタルに関するリテラシー」(54.5%)、「言語化する力(相手に合わせた表現で伝える力)」(48.3%)となっている。
在宅勤務に限らない。出社してもフレックスタイムで出退社時間が各自異なる。さらにフリーアドレス制の企業も増えており、部下が社内のどこにいるかさえも分からなくなっている。社員の自律的な働き方が求められるニューノーマル時代では人事評価自体も大きく変わりつつある。
従来の人事評価は行動評価と成果評価の2つが同じウエイトを占めていたが、行動評価が難しい中で目に見える成果評価のウエイトが高まっている──と説明するのは、IT関連企業の人事課長だ。
「Web会議で自分の意見・提案をはっきりと分かるように言えるなど、目に見える成果が問われるようになっている。今後成果主義は、いや応なしに進むのは間違いない。確かに従来のように『彼は頑張っている』といった行動プロセスが見えにくくなり、ややもすると短期の成果だけに目を向けがちになる危険はある。そこはうまくやるしかないが、日本の企業はこれまであまりにも成果に注目するのが弱すぎたと思う。当社のようにリモートワーク中心の働き方ではより成果を重視する傾向が強まっている」
コロナ禍で定着したニューノーマルな働き方は、たとえコロナが収束しても変わらないという企業もある。
通信系企業の人事部長は「フリーアドレス、スーパーフレックス、リモートワークの3つの働き方を今後変えるつもりはない。会社としてはいろんな働き方のスタイルを提供するから、一人一人が自分に何が適しているかを考えて自分で選びなさいと終始一貫して言っている。ハイブリッド勤務であれ、自分で選ぶだけの話。自分で考えて自律的に仕事をする社員のほうが成果を出せるというのが当社の考え方。それに不向きな社員は正直言って必要ない」と言い切る。
われわれがコロナ禍で得た自由度の高い働き方は一見、時間を自由に使えるように思える。しかし現実には、厳格な自己管理による自律的な働き方と成果が求められる厳しい世界が始まったと考えられる。
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