利益の半分は不動産──フジテレビの不調で、変わるフジHD 101億円の大幅減益でも安泰な理由:妄想する決算「決算書で分かる日本経済」(5/5 ページ)
フジ・メディア・ホールディングスといえば、フジテレビなどの「メディアの会社」というイメージが強いかもしれない。しかし、その内実は異なる。
含み益が増減しても、利益からは分からない
ところで、投資有価証券とは何なのでしょうか?
非常に大まかに説明すると、近々は売るつもりのない、もしくは(株式の持合いや戦略上の理由などのため)売ることが難しい有価証券のことを「投資有価証券」と呼びます。
そして投資有価証券の含み益が変動したとしても、営業利益や経常利益、純利益といった一般にニュースで取り上げられるような利益の額には含まれません。
通常の有価証券であれば、含み益の変化は利益に含める必要がありますが、売却予定のない投資有価証券の価格の変動は利益にしない方が誤解がないためです。
ちなみに有価証券自体は時価で評価します。これは、市場性のあるものには市場価格がある上、市場価格で評価しないと情報開示の側面からも分かりにくいためです。
このような理由で、含み益が増減したからといって利益には含まれません。それでは、含み益がどのくらいあるかを知るためにはどこを見れば良いのでしょうか?
「その他有価証券評価差額金」から把握できる
この答えが、今回のトピックである「その他有価証券評価差額金」という項目です。
その他有価証券評価差額金の推移を見てみると、直近の22年3月期は1247億円となっており、多額の含み益を抱えていることが分かります。
20年3月期には株安を受けて764億円まで減少していましたが、その後の金融緩和による大幅な株高を受けて21年3月期には1220億円まで増加しています。
営業利益の推移を見てみると大幅減益で不調かと思われていたフジ・メディア・ホールディングスですが、資産運用会社と考えて不動産、有価証券の含み益の変化まで見てみると非常に好調な様子が見えてきます。
また、こうしたその他有価証券評価差額金の含み益の変動を含んだ業績の推移が、本稿のもう一つのトピックである「包括利益」です。
包括利益の金額は、20年3月期の172億円から21年3月期には582億円と、410億円もの大幅増益となっています。包括利益には土地の含み益の変化は載らないため、そこまで含めるとさらに好調だったわけです。
テレビ局というメディア事業としてのイメージが強いフジ・メディア・ホールディングスですが、詳しく利益の内訳を見ると、不動産に強みがある会社だという実態が見えてきます。多額の不動産と有価証券を持っており、実質的には資産運用会社と捉えることも可能です。
また、こうした資産の含み益は、普段報じられるような利益に含まれないことが多く、包括利益やその他有価証券評価差額金といった数字もチェックしてみると、違った側面が見えてきます。
関連記事
- スシロー、おとり広告で「信用失墜」し客離れ──それだけではない業績悪化のワケ
最近のスシローといえば、おとり広告の問題で景品表示法に係る措置命令を受けてしまった件は記憶に新しいことでしょう。こういった問題が起きるとどのような影響があるのかを「減損損失」という視点から見ていきます。 - 社長は「トヨダ」氏なのに、社名はなぜ「トヨタ」? “TOYODA”エンブレムが幻になった3つの理由
日本の自動車産業をけん引するトヨタ自動車。しかし、同社の豊田社長の名字の読み方は「トヨダ」と濁点が付く。なぜ、創業家の名字と社名が異なるのか? 経緯を調べると、そこには3つの理由があった。 - GMOの根幹にある「55カ年計画」とは? 安田CFOが明かす、市場や売上起点ではない経営
「CFOの意思」第6回の対談相手は、前編に引き続きGMOインターネットグループ副社長兼CFOの安田昌史氏。太陽黒点の周期に基づく「55カ年計画」と、目標達成が当然のGMO式経営とは? - 「部下を育てられない管理職」と「プロの管理職」 両者を分ける“4つのスキル”とは?
日本企業はなぜ、「部下を育てられない管理職」を生み出してしまうのか。「部下を育てられない管理職」と「プロの管理職」を分ける“4つのスキル”とは? 転職市場で求められる優秀な管理職の特徴について解説する。 - 「優秀だが、差別的な人」が面接に来たら? アマゾン・ジャパン人事が本人に伝える“一言”
多様性を重視するアマゾン・ジャパンの面接に「極めてだが優秀だが、差別的な人」が来た場合、どのような対応を取るのか。人事部の責任者である上田セシリアさんに聞いた。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.