特許庁、「辞めたけど良い会社ランキング」で4位 ”眠らない霞が関”で唯一評価されるには理由があった:グーグルやP&Gジャパンを抑え(2/3 ページ)
オープンワークが9月に発表した「退職者が選ぶ『辞めたけど良い会社ランキング2022』」で特許庁が4位を獲得した。多忙を極めるイメージのある中央官庁の中で、なぜ評価されたのか?
クチコミから読み解く、特許庁と他の中央官庁の違い
まずは、特許庁の職員から投稿されたクチコミを見ていこう。集約すると、「個人の裁量で仕事できること」「男女ともにフラットで自由闊達な組織風土」「育休や産休が取得しやすく、復職もしやすい組織」などが支持を集めた理由として多く挙げられていると分かる。実際のクチコミを見てみよう。
「審査業務において、基本的に各審査官は各々が独立して先行文献調査を行う。その結果を踏まえて新規性、進歩性、さらには記載不備が無いかなどの観点で、審査官一人一人が特許要件に係る判断を行った上で審査結果を拒絶理由や特許査定として出願人側に通知をして行く流れとなっている。そのため、他の審査官や上長との協議が必要な案件でない限り通常の業務は個人的に閉じており、仕事のペースや予定は審査官個人の裁量でほぼ自由に決定して進めることが可能であり非常にフレキシビリティーが高い。こういう事も含めてワークライフバランスは他の官庁では考えられないくらい良好と思われる」(特許庁、審査官、中途入社男性)
「自己の裁量で仕事ができ、上司部下がフラットで自由闊達な意見交換を許されている組織風土ではある。とは言え、霞ヶ関の府省庁の一つであるため、官僚的な縦割りや指揮系統の硬直性に疑問を感じる場面も多い。トップダウンの命令には速やかに従う必要がある。ただし、このところは若手発案の企画を広報活動や政策決定に生かすような活動もしており、少しずつではあるものの従来とは社内の雰囲気が変わってきている。普段は寡黙だがアイデアに溢れた人、ユニークな人材も多い」(特許庁、審査官、新卒入社男性)
「女性は特に、育休、産休、育児短時間勤務(1日に最大2時間)を取得している先輩は多くいるので、取得しやすい雰囲気である。そういう面で、育児との両立がしやすい職場である。ただし、子育てをしていると、希望の部署には行けないことがある(残業が多くなるような部署にはいけない)ので、昇進は男性の方がしやすいと言える」(特許庁、審査官、新卒入社女性)
「仕事は男女関係なく平等で、仕事量も明確なのでストレスが少ないです。女性でも長く働いている人が多く、出産により産休育休に入る人がほとんどであり、出産を機に離職することはほぼないように感じます。復帰後も復帰前と仕事内容はさほど変化はないため、復帰後の仕事のペースもつかみやすいと思います。育休産休の制度は公務員ということもあり、充実しているように感じます。自分の望む働き方が選択できる職場であると感じます」(特許庁、事務、中途入社女性)
続いて、同じ中央官庁の経済産業省や総務省、文部科学省のクチコミをそれぞれ紹介する。
「幅広く日本経済のためという視点で働くことができるので、公益的な視点がある人は働きがいを感じやすい。会議や出張の準備などの非生産的な仕事も多いが少しずつ合理化されてきており、かつてほどの長時間労働ではない。政治家対応は国会待機などの理不尽な面もあるが、無縁な部署も多く限定的。また、多様なステイクホルダーの理解を得て物事を進めるという観点で割り切って考えれば、政治家の理解を得て法律改正や予算要求などの業務を遂行する経験は他では得難いものがある。若手の頃から上場企業の役員クラスと議論する機会も多い」(経済産業省、行政官、新卒入社男性)
「国会対応など他律的業務が多くあり、かつ、予算執行などに際しても原資が税金であることから、公平性を最重視して対応する必要があり、各種調整コストが多大」(経済産業省、企画、新卒入社男性)
「日々、国会業務などに忙殺され、残業時間も多くなるため、働きがいを見つけるのは難しいかもしれない。1年か2年くらいで人事異動があるため、専門性を深めることは難しく、異動希望が反映されることはあまりないため、自分がやりたい仕事をできることはあまりない」(総務省、事務、中途入社男性)
「正直に言って、年功序列で昇給するのみで人事評価制度があって無いようなものなので、やる気がある人にはやり切れない業務環境のように思う。また、議員の質問対応のために残業が恒常化していたり、省内各部間の仕事の押し付けあいが常にあったり、若手がやりがいを持って働けるとはお世辞にも言えない」(文部科学省、大臣官房、行政職、中途入社男性)
特許庁は専門性を生かして個人の裁量で仕事を進められることやフラットで風通しが良い組織文化の他、育休や産休の取得、育児による時短勤務の浸透など、ワークライフバランスを取りやすい環境整備が進んでいるとうかがえる。他の中央官庁は、国の仕事というスケールの大きさを感じられる仕事であり、使命感を持って働いている職員が多い組織である一方、仕事のスケールの大きさゆえに、さまざまなステークホルダーとの調整が数多く発生し、個人では業務量の調整が難しいという側面があると推測できる。
経済産業省のクチコミを見ていると、ここ数年で「他律」というワードが頻出している。自身ではコントロールできない案件が突発的に発生している実態がうかがえる。
その他、特許庁が退職者から評価される理由として、特許庁で「審判官又は審査官として審判又は審査の事務に従事した期間が通算して7年以上」になると、弁理士資格を取得することができることも大きな要因だろう(※要実務資格修了)。つまり、資格試験を受験する必要はなく、資格を取得できるようになるのだ。
また、知的財産権に関するプロフェッショナルとして企業で働く人もおり、退庁後も培った専門的な知見を生かして活躍できる点が退職者からの評価の高さにつながっていると考えられる。
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