リストラを礼賛する経営者たち──魅惑の「雇用の流動性」は何を引き起こすのか:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/5 ページ)
「日本は解雇規制が厳しすぎる、流動性がない」と主張する経営層は少なくない。米国など諸外国のように、雇用の流動性を高めれば賃金が上がるという考えに潜むウソと間違いとは──?
「日本は解雇のハードルが高い」に潜むウソ
そもそも「日本は解雇のハードルが高い」と言われていますが、本当なのでしょうか。
例えば、解雇のハードルの高さについて、経済協力開発機構(OECD)で使われるEPL指標(Employment Protection Legislation Indicators)で、欧米諸国と比べてみましょう。
EPL指標は、雇用保護法制の強さを指数化したもので、指数が高ければ高いほど、規制が厳しいことを意味しています。
欧州、特にオランダ、デンマーク、スウェーデンなどでは、1970年代から流動的な労働市場政策を進めてきた一方、ドイツは欧州の中でも比較的解雇規制が厳しいとされています。なので、ここではこれら4つの国に米国を加えたケースも比較してみます(「OECD Employment Outlook2013より)。
まず、正規雇用の場合、日本のEPLは2.09。これはOECDの平均2.29を下回り、雇用保護が低い=解雇しやすいグループに入ります。米国は1.17とさらに低く、確かに「切りやすい国」であることが分かります。
一方、デンマーク2.32、スウェーデン2.52、オランダ2.94といった国々では、いずれも日本を上回り、解雇規制が厳しいドイツの2.98とも、さほど差がないのです。
また、非正規雇用のEPL指標は、OECD平均が2.08で、日本は1.25とこちらも平均を下回っています。ドイツ(1.75)とデンマーク(1.79)も平均以下ですが日本よりは高い数値で、スウェーデン(1.17) 、オランダ(1.17)、米国(0.33)は日本を下回っています。
つまり、「日本は終身雇用制度があるから、クビにできないから追い出し部屋やむなし」「解雇規制が厳しいから希望退職で圧力をかけるしかない」というのは間違いなのです。
EPLで比較する限り、正規雇用・非正規雇用とも日本はどちらかといえば解雇しやすい国に分類されます。解雇への制約の存在を「日本型雇用システムの最大の特徴」と捉えるのは適切とはいえません。
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