リストラを礼賛する経営者たち──魅惑の「雇用の流動性」は何を引き起こすのか:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/5 ページ)
「日本は解雇規制が厳しすぎる、流動性がない」と主張する経営層は少なくない。米国など諸外国のように、雇用の流動性を高めれば賃金が上がるという考えに潜むウソと間違いとは──?
「雇用の流動性を高める=経済成長」の間違い
日本では「雇用の流動性を高める=経済成長、賃金上昇」と思い込んでいる人が多いのですが、実際にはそうとも言い切れません。
雇用の流動化=転職には、自分のキャリアアップのための自主的な転職と、希望退職も含めて会社都合の解雇があります。ここでは後者にスポットを当ててみましょう。
流動性の高い米国ではこの手の調査が蓄積されていて、全体的には「転職で賃金が減る」という結果の方が圧倒的に多くなっています。割合にすると15%程度の減額で、その状態は5年以上続き、回復したとしても2〜3%程度とされています。景気が悪い時に解雇されると、20年近くも低賃金の状態が持続するという実証研究もあります。
コロナ禍では事情が変わった可能性もありますが、ごく一部の“有能人材”だけが賃金があがるだけで、全体的にはこれまで通りという意見が優勢です。
ここまでの結果が示唆するのは、「流動性が高くなる→スキルが生かせる→賃金が上がる→経済成長する!」という方程式は必ずしも成立しないというリアルです。
特に、日本の場合はたとえ流動性が高まったとしても、いったん「正社員」の座を離れると「非正規」として雇用されるケースが圧倒的に多いので、まずは非正規との賃金差の解消が必要不可欠です。
また、雇用流動化論を強く主張する人たちが想定しているような、「生産性の低い産業や企業から生産性の高い産業や企業に人々が移れば、経済全体の成長率も高まる」という都合のいい現象は起きていません。むしろ、生産性の低い産業に、低賃金で、不安定な状態で雇用されるパターンが実態に近いのです。
極論を言えば、「流動性」が万事を解決するがごとく礼賛し続けている限り、未来はありません。非正規と正社員の賃金差問題、そもそも賃金が低すぎる問題、年齢差別問題など、すぐにでも解決できることは山ほどある。役職定年という制度の見直しも不可欠でしょう。
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