宮城県民のソウルフード「パパ好み」 ファンを惹きつけ続けるための工夫とは?:地域経済の底力(2/3 ページ)
宮城県大崎市で事業を営む、創業71年の松倉。従業員わずか10人程度の小さな会社だが、同社の看板商品である「パパ好み」は、宮城県民はもとより、全国に数多くのファンを抱える。一見すると変哲のないおつまみ菓子なのだが、人々を飽きさせないための工夫があった。同社の松倉善輝社長に話を聞いた。
ファンコミュニティーを活用
商品開発の工夫という点では、同社は消費者アンケートを多用するのも特徴と言えるだろう。ただし、それは全国の数万人規模を対象にしたものではなく、地元に特化した形で行っている。
例えば、7月にリニューアルした「女子ごのみ」は、地域で暮らす女性に商品モニターを依頼した。
「店舗にいらした方々に試食用の商品を配って、意見をもらいました。それを基に味付けやミックスの方法を変えるなどして、再び試食をお願いしました」
松倉は地元の幼稚園とも取引があるため、園の教職員や、時には園児にもアンケートを取っている。それだけではない。パパ好みのファンコミュニティーが地元に存在していて、そこにも依頼をしているのだ。
「SNS上でのバーチャルなコミュニティーではなく、リアルな場での集まりがあるのです。それもいくつも。『俺はパパ好みの営業部長だから』と名乗る人もたくさんいます(笑)。例えば、ある方はバイクのツーリングが趣味で、『今から長野に行くから仕入れに来た』と、200個ほどをまとめ買いしてくれました。それを行く先々で出会うバイク仲間に配ってくれているのです。こうしたコミュニティーの人たちにも新商品を出す前などにお願いすると、とても真剣に取り組んでくれます」
まさに老若男女問わず、幅広い層の人たちが松倉の商品開発に関わっているのである。善輝社長はありがたいことだと喜ぶ。
地元が喜ぶ商品を
こうした行動からも分かるように、地元最優先が同社のスタンスである。
「私たちにとってはあくまでもここがメインの商圏。だから地元の方に喜んでもらえる、おいしいと言ってもらえる商品を作ることが一番なのです」と善輝社長は力を込める。ただし、悩みもある。顧客の高齢化だ。
「仮にパパ好みが発売されてときに生まれたとしても、60歳を超えています。お客さまの中には、歯が弱って食べられなくなってしまったという方もいます。例えば、『あのおばあちゃん、硬いあられを食べるのが怖いみたい』などと、長年贈っていたお歳暮やお中元を敬遠されることも10年ほど前からちらほら出てきました」
そうした状況に対応すべく、歯の弱い高齢者でも安心して食べられる商品を開発しようとなった。その一つが20年5月に販売開始した「ささぽん」である。
ささぽんは、地元・大崎のブランド米「ささ結」を原料にしたソフトせんべいで、JA古川とタッグを組んで誕生した商品。地域の民間企業や団体などと連携して商品を開発するのは、松倉としても初めての試みだった。
「笹結は大崎市が推奨するブランド米ですが、認知度を高めるためにどうすればいいかと悩んでいました。あるときJAから相談を持ちかけられて、六次産業化のお手伝いをすることに。そうした経緯で作られたのがささぽんでしたが、ちょうど柔らかい菓子が必要だった私たちにとってもまたとない機会でした」
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