太陽光・風力発電の問題点と課題
太陽光・風力発電は広大な敷地を必要とし、例えば、100万kWの原子力発電が1年間に発電するのと同じ電力を太陽光・風力で発電するとしたら、太陽光は原子力の97倍、風力は367倍の敷地面積が必要となる。日本の国土面積は英国、ドイツ、フランスとほぼ同じだが、平地面積が欧州3カ国の半分以下で、森林が国土の66%と多くを占める。平地面積当たりの太陽光と風力発電の発電量は既に世界でもトップクラスだが、今後さらに設備を増やしていくには、森林や洋上に進出することになる。
陸上風力では年平均風速6m/s以上が必要とされ、適地は東北、北海道の沿岸部と山地に集中しており、開発しやすい平地で風況に適した地域が年々減少し山間部での設置が増えているが、山間部では安価な設備を広範囲に大量に導入するのは難しい。
洋上風力も、日本の場合、沖合の海底が深いところが多く、定置式に適した海底は限られるため、浮体式が今後、導入されていくと予想される。政府の洋上風力産業ビジョンでは、2030年までに1000万kWを計画しているが、運転までのリードタイムが長く、浮体式風力では大幅なコスト低減が必要で、目標達成は非常に難しい状況にある。
一部では、太陽光・風力などを主力電源として推す動きがある。一見すると、エコに見えるこの2つの発電方法だが、大きな問題点がある。8つの点から具体的に以下に示す。
(1)低い設備利用率
1年間100%出力での発電量に対する実際の年間発電量の割合を示す設備利用率は、定期検査に関する法規制により原子力、火力が80%前後に対して、自然環境によって大きく変動する太陽光、風力はそれぞれ12%および20〜30%と非常に低い。
(2)不安定な電源
九州電力では2018年10月に太陽光発電が全電力の46%まで増加し、465万kWの余剰電力が発生することが判明した。域外への送電、揚水発電、蓄電で対策したが、残り43万kWを太陽光発電の一部停止で対応した(日本経済新聞18年10月12日付け)。
一方、2021年7月の猛暑では予備率が3.7%に減少すると予測され、停止中の石炭火力を再稼働して夏を乗り切った。太陽光や風力の発電割合が大きくなると、停止中のバックアップ電源を緊急に立ち上げて需給バランスを取ることが年間を通じて必要となる。
(3)系統安定性への影響
太陽光や風力は直流から交流への変換に電子機器を使用しているため、周波数や電流の急激な変化に対して周波数を維持する機能がない。このため、ある一定の閾値を超えた場合は、電子機器を守るために電力系統から離脱(解列)するという措置を取らざるを得ず、急激な発電停止で系統電力の需要と供給のバランスが大きく崩れると大規模停電(ブラックアウト)が発生する。海外では、16年9月28日、南オーストラリア州全体で大規模停電が発生した。
(4)景観・自然環境の破壊
環境省国立環境研究所の研究報告(21年3月) は、「再生可能エネルギーの発電施設は広い設置面積が必要であるため、設置場所の生物・生態系、水循環などの自然環境への影響を通して、自然資本の損失を招く恐れがある。発電施設の立地適正化は、今後の日本にとって重要課題である」と警告している。発電設備等の適正な設置と自然環境との調和を図るため、設備等の規制を目的とした条例を制定する自治体が増えており、22年10月時点で都道府県が6条例、市町村が202条例、制定している。
(5)森林伐採によるCO2吸収量減少
第6次基本計画では、森林によるCO2の吸収量を約3800万トンと設定している。
太陽光発電設置のために伐採された二次林・人工林の面積143平方キロメートルで試算すると、森林伐採によるCO2吸収量の減少は年間15.8万トン、21年から30年の10年間で158万トンに達する。
世界各地でCO2の吸収源である森林が伐採により減少していることが大きな問題となっている。森林を伐採しメガソーラーを設置するのは数年で可能だが、樹木を植え森林を再生し生物・生態系、水循環などの自然環境を復活させるには数十年から数百年を要する。
(6)自然災害による事故の多発
経済産業省の新エネルギー発電設備事故対応・構造強度ワーキンググループ(WG)の報告によると、電気事業法に基づく21年度の事故報告で、太陽光が435件発生し、このうち設備不備が136件、保守不備が154件、大雨による土砂流出や支持物・架台の損壊が33件であった。風力も24件発生し、小型風力の倒壊が1件発生した。太陽光・風力を主力電源化するには、高い信頼性・安全性を確立・維持する必要がある。
(7)太陽光パネルの大量廃棄処理
FIT制度が開始された12年から18年にかけて太陽光発電設備が大量に導入され、発電電力量は約3倍に拡大した。太陽光パネルの寿命が20年とすると、35年から37年頃に、太陽光パネルの大量廃棄が発生し、年間排出量が産業廃棄物の最終処分量の1.7~2.7%に及ぶと予想される。FIT制度では調達価格に廃棄等の費用を含んでいるが、費用を積み立てている事業者は全体の20%以下の状況だ。
今後、放置や不法投棄の問題が生じ、しかもパネルの種類によっては、鉛やセレン、カドミウムなどの有害物質が含まれる。FIT認定の事業者に廃棄等の費用の積立計画と進捗(しんちょく)状況の報告を義務化する必要がある。
(8)太陽光パネルの中国依存
19年の世界の太陽光パネル生産量の71%が中国で、原料のポリシリコンの生産量も80%を中国が占め、その50%が新疆ウイグル自治区で生産されている。
22年6月21日、米国でウイグル強制労働防止法に基づく輸入禁止措置が施行され、新疆で「全部または一部」が生産された製品の米国への輸入が原則禁止となった。日本の太陽光パネル国内生産は、10年に87.3%だったが、19年には17.1%に減少し輸入が82.9%に増大した。輸入の79%が中国という状況で、今後、日本にも米国並みの対応が迫られると予想される。
主力電源を目指す太陽光発電の中核となる技術や生産拠点を国内に保有せず、中国からの輸入に依存する状況は、エネルギーの安全保障、長期安定電源化の観点からは非常に大きな問題と考える。
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