「高齢者」が部下になったらどうする? 年下上司に必要なスキル
では、シニア就業者が活躍するには何が重要なのだろうか。シニアがイキイキと幸福に働き、活躍することを表す概念として「はたらくWell-being(※6)」に着目し、分析を行った。
※6:はたらくことを通じて幸せを感じており、かつ不幸せを感じていない状態を表す
その結果分かったことの一つは、シニア就業者のはたらく幸せ実感には「仕事を通じた成長実感」が強く関連するということだ。過去1年間で成長を「まったく実感しなかった/実感しなかった」と答えたシニア就業者のうち、仕事で幸せを感じている割合は2割弱にすぎなかった。一方「とても実感した/実感した」と答えたシニア就業者では約7割に上った。
シニア就業者と成長が結び付けて語られることは少ないが、就業者の成長実感とWell-beingとの関連度に年代差はない。いくつになっても、仕事を通じて新たなことを学び、成長することは、仕事における幸福感を高める。
しかし、どのような出来事から成長を感じるかは、下の年代とは異なっていた。シニア就業者の約4割は「仕事に意義・やりがいを感じること」によって成長を実感しており、上司からの指導や同僚との切磋琢磨を挙げる声は少ない傾向があった(図5)。自分がやりがい・意義を感じることができる仕事を選ぶことが、シニア就業者にとって特に大切だといえる。
継続雇用後のシニア就業者は、年下上司のもとで働く場合が多い。一般に、年下上司が年上部下をマネジメントする際には、過去の立場が逆転することなどが原因で、関係がギクシャクしやすいといわれる。では、シニア部下にWell-beingに働き、活躍してもらうために、上司はどのような行動をとればよいのだろうか。
調査データを分析し、Well-beingに働くシニア就業者の上司の特徴を抽出した。なお、全体的な傾向のため、個々のシニア就業者に当てはまらない可能性がある点には留意してほしい。
図6のように、Well-beingに働くシニア部下の上司は、シニア部下の存在を認め、意見を取り入れる、他のメンバーと平等に接するといった行動をとりながらも、組織目標の伝達や業務の進捗支援といったトップダウンな支援も行っている傾向があった。ベテランとして尊重しながらも、上司として業務上の支援はしっかり行うということだろう。
また「成長機会の付与」や「仕事ぶりに見合った評価」「感謝・ねぎらい」といった下の年代で重要とされる行動は、シニア就業者のWell-beingにはあまり重要ではないという結果だった。組織から評価され昇進・昇格を目指す段階ではないシニアにとって、これらの行動ではWell-beingを高めづらいと考えられる。
また、逆にWell-beingを低下させる上司の行動は「プライベートな話を打ち明ける」や「悩みや不満を聞く」であった。関係性にもよるだろうが、上下関係のねじれがある年上部下に対する行動として、適切ではない場合が多いことが予想される。
まとめ
本コラムでは、近年大きく変化するシニア就業者の様相について「働く10,000人の就業・成長定点調査 2023」のデータから確認した。本コラムのポイントは以下の通りである。
- 2017〜2023年で、雇用されて働くシニア就業者が増加した。具体的には、60代前半では「正社員」、60代後半では「パート・アルバイト」の比率が増加。代わりに、「自営業」の比率は減少。
- シニア就業者自身の「働き続けたい年齢」は変化していない。全体傾向としては、シニア就業者の「長く働きたい」という意欲が高まっているわけではなさそうだ。
- 21年以降、契約期間満了(定年等)によるシニア就業者の転職が減少し、給与への不満による転職が増加している。拡大を続けるシニアの継続雇用において、給与の減額等によるモチベーション低下をいかに防ぐかが重要。
- シニア就業者がWell-beingに働くには、やりがい・意義ある仕事で成長を感じることや、上司がベテランとして尊重しながらもトップダウンな業務遂行上の支援もしっかりと行うことが重要。
本コラムが、シニア就業者の動向を把握する一助となれば幸いである。
金本麻里
総合コンサルティングファームに勤務後、人・組織に対する興味・関心から、人事サービス提供会社に転職。適性検査やストレスチェックの開発・分析報告業務に従事。
調査・研究活動を通じて、人・組織に関する社会課題解決の一翼を担いたいと考え、2020年1月より現職。
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