「便利」でもなく「楽しく」もない、そんなローカル鉄道はいらない:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/7 ページ)
12月中旬、日本共産党は提言「全国の鉄道網を維持・活性化し、未来に引き継ぐために」を発表した。鉄道ファンとしてはとても心強い話だが、内容では「活性化」に触れていない。残せば地域が活性化すると考えているなら無責任だ。問われるべきは「鉄道を維持したらどういう未来が待っているか」なのだ。
そもそも「鉄道」とは何か
鉄道事業法では……という話はさておく。そしてちょっと脱線する。
私は中学生の時に父の友人宅で初めてワープロに触れた。初代キヤノワード、机みたいに大きかった。触ってみた。「これで悪筆から解放される」と思った。私は作文が好きだったけれど、先生からも親からも「内容はともかく字が汚い」といわれるほどだった。高校の友人宅でNECのPC-8001を知った。ゲームだけではなく、動作は遅いけれどワープロもできた。まるで夢のような機械だった。パソコンすげぇと思った。
プロフィールにあるように、私が社会人としてスタートした職は、コンピュータ雑誌の広告営業だった。そこで先輩について修行したのち、パソコンゲーム雑誌の担当になった。次にCD-ROM付きマルチメディア雑誌の創刊担当になった。
その時の編集長に「パソコンの本質とは何ですか」と聞いたら、素っ気なく「道具だよ、ただの道具」といった。これにはガッカリした。「夢の箱だよな。何でもできるし、世界を変えられる」という返事を期待していたからだ。
しかし、いまはこの意味がよく分かる。パソコンは道具だ。オフィスにあっては便利な道具、ゲームソフトを走らせれば楽しい遊び道具。広告営業の先輩がいった。「売れるモノって、便利か、楽しいか。どっちか、あるいは両方なんだよ。雑誌でいえば、『会社四季報』は便利、『週刊少年ジャンプ』は楽しい。だから売れる」。
「便利」と「楽しい」はいまも私の価値基準になっている。
例えば包丁は便利だから売れている。日本刀は江戸時代までは闘いに便利な道具だった。しかしいまは「便利」に使ってはいけない。鑑賞して「楽しい」工芸品として残っている。
鉄道も通勤通学旅行に「便利な道具」だ。私のように存在を「楽しい」と思う人もいる。10年頃から観光列車ブームが起きて、鉄道ファン以外の人にも「楽しい鉄道」が増えている。
「地域公共交通」において、鉄道は「便利」か。通学輸送にとってはとても便利だ。しかし日中夜間は閑散としている。通学輸送以外の地域の人々にとって「便利」ではない。なぜか。もっと便利な交通手段があるからだ。マイカー、バイク、自転車など。デマンドバス、乗り合いタクシーもある。かなり遠い未来に自動運転時代が来る。
「便利な道具」は、「もっと便利な道具」に駆逐される。鉄道だって、かつては川船、馬車、人力車を駆逐してきたわけだ。そしてこれらの交通手段は日本刀のように、「便利」ではなく「楽しい」で残っている。
国が責任を持って「川船輸送を国営で維持すべき」「馬車会社を国有化すべき」「人力車は公務員で」なんていったら、なんて馬鹿げた話だと思うだろう。鉄道のほうがずっといい。当時はそうだった。でも、いまはどうだろう。
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