「便利」でもなく「楽しく」もない、そんなローカル鉄道はいらない:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(7/7 ページ)
12月中旬、日本共産党は提言「全国の鉄道網を維持・活性化し、未来に引き継ぐために」を発表した。鉄道ファンとしてはとても心強い話だが、内容では「活性化」に触れていない。残せば地域が活性化すると考えているなら無責任だ。問われるべきは「鉄道を維持したらどういう未来が待っているか」なのだ。
鉄道が鉄道たるために
国の地方鉄道に対する支援はいくつかある。「安全性の向上に資する設備更新等」「インバウンド対応型鉄軌道車両」「LRTシステム」「全国共通ICカード」「コミュニティー・レール化」だ。それぞれ設備投資に関する制度で、赤字を補てんする制度はない。
しかし鉄道事業者の自助努力には限界があるから、鉄道の存続支援については沿線自治体の負担になる。設備投資にしても国の全額補助はなく、自治体と同比率にとどまる。つまり、「鉄道を残す」には、地域と自治体の覚悟がいる。それを国が全て面倒を見なさいという考え方は果たして正しいか。JRが「公共交通の維持のために、低コストのバスにしたい」というなら、国民も同じ。血税の無駄遣いはやめてほしい。
鉄道を維持する場合は自治体が関与し、上下分離や新たな運賃体系をつくれるようにする。BRTやバスにする場合はJRも積極的に関わる(出典:国土交通省、鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会について)
沿線自治体は地域公共交通を真剣に考えているか、その上で鉄道を残す覚悟があるか。そこに知恵を絞らない地域に対しても「国が鉄道を残せばなんとかなる」でいいのか。
私はガラ空きの車内でのんびり走る鉄道が好きだ。乗り鉄のほとんどが混雑を嫌う。ローカル鉄道がなくなっても、葬式鉄が終ったら、別の路線に乗って楽しむ。それだけだ。つまり、乗り鉄なんて鉄道事業にとって本質的にはアテにならない存在だ。
もう一度問う。
そのローカル鉄道は「便利」ですか。「楽しい」ですか。
その地域にとって「鉄道」が本当にベストな選択ですか。
その結果として鉄道を残せるとしたら嬉しい。鉄道ファンとして、本来の機能、役割を果たしてる鉄道が頼もしく、ありがたい。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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